燗酒の魅力 日本酒の立場

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 燗酒の立場

暑い季節であっても、私は案外に日本酒を燗で飲むことがあります。地酒好きというか、日本酒好きという人には燗酒を飲みたがらない人も多くいます。もう長い間、地酒を扱う店が冷やしたままの提供を続けたこともあって、「良い酒は冷やして飲む」ということが当たり前のように世の中には受け止められてきています。

確かにこれまでの多くの試飲会でも、冷やした状態で試す機会しかありませんでした。ところがそれが最近では変わってきています。

全ての試飲会というわけではありませんが、各蔵のブースに燗酒の用意をしたり、全参加蔵の酒の代表を集めて別途に燗酒コーナーを設けたりして、その味わいの違いをアピールすることも増えています。
山廃や生酛を造る蔵が増え、また同じ酒蔵でも山廃を何種類も造っている場合もあり、私たち消費者にその特性からの魅力を再認識させてくれようとしています。更には熟成酒の取扱いも多く見られるようになって、燗酒の見直しを蔵の方でも積極的に提案し始めたのだと思います。

 居酒屋の立場

冬を迎える頃には燗酒の旨さが際立ってきます。もちろん飲み方は各個人の好みに委ねざるを得ませんので、これを誰にも強要するつもりはありません。ただ、世界でも非常に珍しく、日本酒が多様な温度帯で楽しまれている酒だということは、知っておいて損はないはずです。

冷蔵庫に飾りながら冷やした地酒をグラスに注いで売ることに慣れてしまった居酒屋は、それが一番いいと思い込み、いちいち燗をつけるなどという面倒は避けているかの如くだったのです。

それだけでなく、売る側の知識もあやふやで、燗酒を正しく理解しながらお客様に説明することができないのも珍しくありませんでした。これは居酒屋だけでなく酒屋さんにも同じ問題があります。それほどに燗酒は世の隅に追いやられ、本来の姿や価値を放棄したような30年を過ごしてきました。

居酒屋も燗酒用はたいてい別扱いで、酒燗器に頭を突っ込む酒はクラスの劣るものがほとんどで、大切にもされていないのが現状でした。
ところが、このところの居酒屋で地酒を扱うところでは、地酒の燗をたのんでも嫌な顔をせず引き受けてくれる店が増えていて、私には嬉しい限りです。

 天狗舞山廃純米の立場

10日ほど前、随分と冷える夕方に友人と入ったお店でも気軽に地酒の燗を出してくれました。
選んだのは石川の酒・天狗舞山廃仕込み純米酒。
この酒をしっかり冷やして飲むと、良さが半減するように私には思えます。
http://www.tengumai.co.jp/product/junmai.html
蔵元ホームページより引用:
純米酒・山廃造りの代名詞とも言われる天狗舞の看板商品です。山廃仕込み特有の濃厚な香味と酸味の調和がとれた個性豊かな純米酒です。濃い山吹色は目も楽しませてくれます。

世間でお燗酒の代表として知られているのは福島の大七純米生酛です。しかし、この天狗舞山廃純米酒も燗酒として飲むのには認められたお酒で、燗をした時の味の膨らみや円やかさは沁みるような安心感があります。

そんな私も若い頃は「地酒を燗して飲むなんて!」と知ったかぶりでいた時期もありました。或いは今の方が貪欲になっただけともいえます。料理にせよ、酒にせよ、あまりに狭いところに押し込んでしまうと、本来持つ美味しさを知らないままに終わってしまうことになり兼ねません。
天狗舞山廃純米酒の立場を思いつつ、今夜は別銘柄の燗酒を楽しむことにします。