無鑑査という日本酒の在り方

この記事の目次

 級別の酒があった時代

国税庁のホームページ 戦後の酒と酒税:より引用
(前略)清酒などについては、昭和18年に「一級」から「四級」の4段階に分類する級別制度が導入され、級別に庫出税が課税されました。級別制度は、太平洋戦争後に「特級」「一級」「二級」の3段階に変更され、平成2年(1990)に導入された「本醸造」「純米酒」などの特定名称による分類により平成4年に撤廃されました。(後略)
ここにあるよに、1992年より級別制度が廃止されて既に26年が過ぎたことになります。言わば今の30代の人たちには全く馴染みのない制度が過去にあったということです。もちろん日本酒だけでなくウィスキーも同様に級別で分けられていたのですから、これを知らない人がいるのも当たり前です。
大雑把に何のために級別制度があったのかと言えば、それに依って酒税が違ったということです。
北澤純税理士事務所さんのホームページ:より引用
1升当たりの酒税は、特級1,027円、一級酒503円、二級酒194円
それもこれも、当時の監査に出さなければどんなお酒も全部2級酒で売るしかなかった時代です。
例えばその当時、1升で900円の原価をかけてお酒を造ったとします。
特級にして3,000円で売れば3,000円-900円(原価)-1,027円(酒税)=1,073円(利益)が残ります。

2級にして1,500円で売れば、1,500円-900円(原価)-194円(酒税)=406円(利益)になります。

殆ど売れない3,000円の特級にするよりは、1,500円でも売れてくれれば3本売れたら特級1本が売れた以上の利益になる方を選んだ酒蔵があるということです。無名な地方の酒蔵が造った特級酒なんて、先ずは売れることなどなかったはずです。

大手の「松竹梅」さんはおめでたい席での用意には名称からして相応しい訳ですから、席に並べるだけでも様になる。そんな場でこそ特級酒の出番があるのです。悪口ではなく、もしもこちらが500円の原価のお酒を特級で出していたとしたら、その利益は大きなものだったはずです。

 無鑑査のお酒

日本酒の級別制度で1級や特級で売るには必ず「監査」を受けなければなりませんでした。この監査は官能検査も含めて国税庁の方たちが行なうのが常でしたので、その監査を落ちるなんてことはなかったと聞きます。ここは間違っていると謝る他ありませんが、合格すれば高い税金を課すことができるお酒が監査落ちするなどということがあるとは思えません。

昨年来の流行りになった「忖度」は当たり前に存在したはずです。しかも簡単に官能検査で落ちるようなお酒をそもそも酒蔵が監査に出すこともありえないでしょう。それなりな品質であれば級別監査で全てが認められるのは不思議でもなんでもありません。


そんな時代であったればこそ、監査に出さないで2級酒のまま売ろうとしたお酒は地酒の中にたくさんあったと聞きます。そしてそれをハッキリと謳って発売したのが宮城の「一ノ蔵無鑑査」です。ですからこれは2級酒でした。当時1,800円ほどで売られていたように記憶しています。

売価は1級、味は特級、級別は2級というネジ曲がった現象がここにあったのです。常識破りに挑戦したこの心意気は尊敬物でした。

その一ノ蔵はいまでも「無鑑査」の名称を大切にしています。級別制度の時代に守って活きたこの名称の意味は大きいはずです。現在でこそ官能検査で酒税を決めることなどなくなりました。しかしここに「艦評会」なるものがあり、「金賞」を与えています。果たしてこの賞が意味を成すかどうかは横に置き、誰かの判断基準を参考にするならば、一定の意味を持って私たちの頭に染み込んでくるはずです。

「無鑑査」という言葉や名称を一ノ蔵さんが大切にしていることを私たちは忘れてはいけないように感じます。日本酒の在り方の意味を、今持って提案してくれています。
敢えて無鑑査。
もう一度、周りを取り囲む意味も考えながら、酒そのものと正面から向き合う必要を教えられた気分です。