寿司屋の日本酒

寿司屋に日本酒は必要か?

寿司屋と一言で言うには、あまりに形態が増え、本格的なところから、まるでファミレスのような回転寿司まであって、一括りにしてしまうには無理があると思います。そんな時に「寿司屋に日本酒は必要か?」とは愚問になりかねません。

何時だったか、手軽に済ませようと友人と二人である回転寿司に入った時、日本酒は?ときいたら、「置いていません」という答え。今はこれもやむ無しとするしかないのですが、一抹の不安を拭いきれませんでした。

30年ほど前の話で恐縮ですが、初詣に行った際、偶々境内で会った知り合いと参道にある寿司屋に寄ったことがります。当時としては珍しく、「愛媛・梅錦」と「宮城・浦霞」の二種類を置いていました。多少の散財にはなりましたが、せっかくの正月ですから、喜々としてその地酒を飲みながら寿司を楽しませてもらいました。

寿司とは、原則として魚をシャリと一緒に美味しく食べさせる料理だと思います。そしてそこに日本酒が加わることで、寿司の美味しさをさらに引き立てるものだと、私は確信しています。ですから、私の答えは「寿司屋に日本酒は必要!」なのです。

前の回転寿司に日本酒がなかったことは残念なだけでなく、寿司の持つ可能性の広がりを放棄したように寂しく感じました。特に都心の回転寿司店は食べる方が重点で、酒を迷惑と考える経営方針も成り立つことでしょう。だからこれに苦情を言うつもりはないのです。

下戸の方もいるし、家族連れ中心であれば酒類を控えたケースもあっていいことでしょうから、各店舗の方針はわかります。だからこそ、寿司屋の日本酒について、私なりに少しまとめてみたいと思います。

寿司と日本酒の定義

かつて誰かが、寿司と日本酒の関係をこう定義付けていたことがあります。
おいしい寿司屋がおいしい日本酒を置いているとは限らないが、おいしい日本酒を置いている寿司屋の寿司は間違いなくおいしい。

これはかなり奥の深い言葉だと思います。そして私もそうだろうなあと、同意してしまうのです。私がそれほどに高級でおいしい寿司屋を知っているわけでも、分かるわけでもないのです。ただ、この定義の中には本質があると考えています。

今のように地酒についても日本酒についても、詳しい人が少なかった時代に、寿司のおいしさを称えられた高級店であれば、酒問屋の勧めるに任せて、◯◯の特級酒を置いていれば格好がついたのです。失礼ながら、誰もが知る大手酒造の特級酒であれば良かったのです。味が分かろうが分からなかろうが、それで誰もが評価し納得したのです。

ですから、高級店でないところはどのクラスの酒を置くかで悩んだはずです。一応、特級酒は置いていても、一級酒も置き、お客様の要望に上手く応える必要もあったでしょう。

ところが、日本酒の級別表示が廃止され、「特級」を売りに出来なくなった頃から変わっていきます。店によっては、儲け優先で質の劣る日本酒に切り替えたところもあったでしょうし、少し詳しい店主なら「大吟醸」の名につられて、それを揃えたかも知れません。

内容はともかく、級別で判断できたことが、もっと面倒くさい違いになり、酒蔵の質からが評価に上る時代になってきたのです。そこで発せられたのがこの章の冒頭の言葉です。

おいしい寿司屋がおいしい日本酒を置いているとは限らないが、おいしい日本酒を置いている寿司屋の寿司は間違いなくおいしい。

この裏にあるのは、「日本酒にまで気を配ってこだわる寿司屋は、寿司もおいしい」ということに繋がるのです。「寿司はおいしくても、日本酒には気遣いのない寿司屋もあるよ」という意味と同時に、これはかなり言い当てている定義と思えて忘れられません。

日本酒の持つ力

私は決してグルメではありませんし、そうなりたいとも思っていません。ただ、私の中で変えがたいひとつが「刺し身を食べた後のビールはまずい」というこの一点です。そしてこれに対応できるのは日本酒だけだと思っていることです。刺し身に限らず、焼き魚にしても、ビールとの相性は私には辛い。しかし、日本酒はこれを全て解消します。

これはあくまで私の感覚ですから、違う意見の方がたくさんいても不思議ではありませんし、私の意見を押し付けるつもりも毛頭ありませんのでご安心ください。しかし、日本酒と魚の相性が良いことは多くの方が認めてくれるのではないでしょうか?

何でもいから置いとこう。
うちの寿司にはこれが良いだろう。

この2つは大きく違う意味があります。本当にそれが合っているかどうかは個人の好みもあるので、一概には決められないことはわかっていますが、寿司と日本酒の関係に意識を持っているかどうかは明白です。

寿司にこだわるなら、日本酒にもこだわろうよ!という感覚です。
職人とは我儘なもので、またその我儘こそが他店と差別化しているのですが、これを店舗の中で発展的に議論できるかどうかは、将来に大きく関わると私は思います。

正解は横に置くとして、こうしたこだわりはどんな業種にも必ず発展のステップになると私は信じています。寿司屋と日本酒の関係を探りながら、各自の大切なことのヒントになればと思います。