アンケートから探る答えと、きき酒師

 アンケートの頼りなさ

よく聞く話で、アンケートは設問の仕方でいくらでも結果を変えられる、というのがある。だから私は「アンケートの結果は…」ということを鵜呑みにしないように心がけている。ここで分かりやすい話を例に上げる。
ある時、自転車についてのアンケートで、迷惑と思う乗り方は?とか言う設問をみたことがある。
・ 二人乗り
・ 並列走行
・ スピードを出す
・ 傘をさして乗る
と、確かこんな項目での選択が用意されていたと思う。

ところが私にはこの内容は普段自転車に乗らない人が考えた設問にしか思えなかった。おそらく想像でピックアップしたに違いない。だからこそ、こんなもので出た答えなど何の信憑性もないと考えてしまった。

それは何故か?
私は毎日のように自転車に乗り、昼夜を問わず経験しているし、歩きながらでも常に自転車を利用する人を目の当たりにしている。そんな私が、最も迷惑、いや恐ろしいと思う乗り方が3つある。
・ 右側走行
・ 無灯火走行
・ 十字路を右の手前の角から右に曲がる
面白いもので、これに該当する項目は前のアンケートの項目の中にはない。

現状当たり前に見る景色として、特に子供を乗せたママさんが電動アシスト付自転車で右側を高速走行し、十字路でも徐行することなく走り去るのを目にするにつけ、「子供と心中するつもりか!」「今は運が良かっただけだぞ!」と叫びたくなることもしばしばだから、恐ろしさは尋常ではない。しかし、これを本人が自覚しているとは全く思えないところが尚更、事態の終末に等しく、恐ろしい。しかもこんな重大な違反走行を世間では見逃しているのか、知らないだけなのかすらわからない。

ここでより感じることは、私が揚げた3点は、「本来あり得ない違反行為」。
これが横行していることが現状なのだ。
先のアンケートの選択肢に有ったことは、大きな部分で自己責任の範疇に入る。ところが現在私が実感する恐怖は、本人だけで済まない他者を巻き込む迷惑行為。これほどに意識の在り処が変わってしまっている。

「何故、無灯火で走るのか?」と聞くと「自分は見えているから」と的外れの答えが返ってくるらしい。自分の居場所を相手に知らせる目的が先にあることをわかっていない。
「何故、右側走行をするのか?」と聞くと、「怖いから」と答えるらしい。対向車の運転手の恐怖と事故誘発など考えてもいないし、想像にも浮かんでいない。
自転車走行については、あくまで「自分勝手」が現在の重要な問題点だとわかる。

アンケートは選択肢などとは違い、現実は程遠い暴走をしていることがある。ことほど左様にアンケートは参考にはしても、信じるものではない。欲しい答えに導くことが出来ると知った上で、眉に唾つけて、一度は疑ってかかるに限る。

 お酒のアンケート

さて、日本酒について。
あなたの好きな地酒は?
こんなアンケートが成り立つとは思わないが、どうだろう。
どんな設問にしてもこれほど当てにならないアンケートはないと思う。
一体誰に聞くのか?年齢は?性別は?日本酒を普段から飲む人か?等等。
出荷量とか売上とかでの実績で優劣を見るならともかく、好みを聞くという困難さは無謀に等しく計り知れない。
居酒屋などで、「人気はどれですか?」という質問も正しい答えが返ってくる保証はなく、これも怪しい。

売れているから人気があると決め込んで良いのか?これもイコールではあるまい。

こんな設問で地酒のアンケートを採ったとする。
例)A、B、Cの3種銘柄の地酒についてという設問
◆どの地酒が好きですか?
A 45%
B 30%
C 25%
◆どの地酒が嫌いですか?
A 55%
B 25%
C 20%
だとしたらどう判断するだろうか。
好きも嫌いもナンバー・ワン。
大体が3種に絞って聞くこと自体に無理があるのはわかり切ったことで、そんな無謀なアンケートを行なうことなど誰もしないに違いないが、欲しい答えになるように設問を工夫することは可能だろう。

 きき酒師の仕事

私も地酒を多く扱う居酒屋で長く仕事をしてきたが、よく質問された。
「どの地酒がおいしいですか?」
「どれが一番好きですか?」

お客様自身が自分で選びかねた時には、こんな質問が多かった。

ところがこの質問こそが一番答えにくい。
だからこんな時は、むしろ私の方から聞き返すことことにしていた。
「よく飲むのはどの銘柄ですか?」
「今までで気に入った名柄は?」
「どんなタイプのお酒を試してみたいですか?」
「冷やしたのと温めたのとどちらがいいいですか?」

など、お客様の好みや希望を聞くことから始めた。
こうして導き出したデータからおすすめの銘柄を探し出せば、お客様の求めていた答えに近いものを提供することはできる。

きき酒師の仕事とは「美味しいお酒」を教えてあげることではないし、人によって好みが違う以上、確かな答えなどどこにもない。きき酒師とはお酒それぞれの特徴と他との違いをわかりやすく説明して、お客様が選ぶためのお手伝いをすることが役目。自分の好みを押し付けることも、高い酒を売ろうとすることもない。

やはり大切なのは、データに頼ることではなく、人と人の接する中でのコミュニケーションだと思う。データは嘘ではないかも知れないが、その答えの置所は様々。地酒を楽しみたい時に自分の舌に頼る他、何を信じて方向を探れば良いのだろうか。

アンケートやニュースが全てでない以上、信じるに値する情報提供者も自分の責任で見つけるしかないのも明らかなのだろう。きき酒師の使命は自分で思う以上に世間に密着すべきだと思う。上下関係などではなく、役に立てるかどうかはお互いを認め合って、同志として見ることが出来るかどうかにもかかっていそうだ。
先ずは自分を知ることが第一なのかも知れない。