クレームは「満足」と「納得」の違い

 クレームとは何なのか

現在ではモンスターと呼ばれるほどのクレーマーが存在するという。私も長く居酒屋で仕事をしてきて、お客様からお叱りや苦情を頂いたことは何度もある。以前から「コンプレ」と言ってきたことも含めて、いわゆる「クレーム」についてその意味を少し整理したいと思いネットで検索してみた。
ナビゲート」さんのホームページより引用:

claim … 正当で当然の権利として要求する。損害賠償、支払い要求など。商品・サービスに関して、直接的に損害を受けた場合の請求行為・ complain …不平、苦情、グチ

他で見てきたことも合わせると「クレーム」の本質は「行為」で「コンプレイン」の本質は「感情」という範囲にあるらしい。
いずれにしても、居酒屋や飲食店にとって「クレーム」と言う言葉で表現することは原因は何であれ、お客様が「納得できない」という思いをぶつけてくることに他ならない。
しかしここで、「納得できない」と店側に伝える行為にはその分のパワーが必要だということは理解したほうが良い。お客様もそんな面倒くさいことを誰も言いたくないのが本音に違いない。ところが言わなければ自分の気がすまなかった。

 クレームが起こるケース

日本のお客様は優しい人が多い。
さして重要なことでなければ苦笑いしながらもやり過ごしてくれることがほとんどだ。居酒屋では多くの場合そんなお客様の寛大な心に救われていることが多いのも事実だろう。
私が経験したことで言えば、1つの不満でお客様が怒り出すことは非常に稀なことで、そのお客様に繰り返し不満を与えて、それを放置してしまった時に感情が弾けて「納得できない」となる。

・ 注文の商品の提供が遅くなっていることに気づかない。
・ 聞いたはずのオーダーが通っていない。
・ 食事が優先のお客様とお酒が中心のお客様に同等の対応をしている。
・ 現在の調理場の状況やお客様の心理を慮ることができない。
・ 細かな声がけも忘れている等。

理由は私が言うほどのことではなく、それぞれの店舗の人たちが実はしっかりわかっていることばかりのはず。
私たちはどうすれば良いのだろうか?

例を挙げてみよう。
お客様が「つくね串」をオーダーしてなかなか届かない。
「遅いなあ」と不満に思っている頃、来たと思えばオーダー違いの商品で、注文した「つくね串」ではなく「焼きとり」だったとする。
「注文したのはつくね串だよ。塩でね。」と間違いを正す。
「申し訳ありません。急いでお持ちします。」と従業員は引き下がる。
10分ほど後。
「おまたせして申し訳ありません、つくね串です。」そう言って、つくね串をタレで持ってきたとする。
こうなると、「あのね!」となってしまう。

もしかすると2つまでは不満も抑えてくれるかも知れない。それほどに日本のお客様は寛大に私たちを見てくれている。
私の経験上もモンスターさんは横に置くとして、クレームの原因はほとんどすべてが私たち店側にある。

 「満足」と「納得」

お客様に面と向かって「クレーム」というと更に不快になるのがほとんどだ。
そこには「クレーム」と言う言葉のマイナスイメージが強く、お客様は自分が悪者に仕立て上げられるように感じるのだ。
だからそこで「ご意見」などと柔らかく言い換えようとする。だが、これこそが間違いではないかと私は思っていて、そこには常に自分たちを擁護する言い訳が用意されている。

・ 忙しいんだから仕方ない。
・ 人がいないんだから無理だ。
・ いっぺんにアレコレ言われても。
・ 確認したのに自分の言葉をお客様の方が聞いてない。等々。

お客様にとって店の事情などは全く関係ない。
だからこそ店側は自分の事情を自覚してどうすべきかを、毎日見直して変えていく必要がある。
お客様からは「不満=満足できない」ではなく、更に「納得できない」というレベルになって初めて「クレーム」になる。だから決して「ご意見」ではない。
私たち居酒屋の従業員は少なくとも「お客様に満足してもらおう」という思いで仕事をしているはずだ。ところがご来店いただく方全員に、常に「満足」してもらうことは正直なところ難しい。
何が足りないかを仕事中に何度も自覚することが最も大切で、お客様は今何に「不満」を感じているかにアンテナを張り巡らすしかない。そして、今日のその後の対応をどうできるかが全てになる。

「不満足」を「納得」に変える

長く居酒屋で仕事をしてきた人たちは知っている。
「今日は○○が不満だったけど、よく気遣ってくれたね。」
お帰りの際にこう思ってもらうことで決してクレームにはならない。
要は「不満足」をそのまま放置せず、「満足」ではなく「納得」に変えることで解消できる。
混み合っていて、テーブル席をご希望だった2人のお客様をカウンター席にご案内したとする。
この不満足を解消するために一番の特権を持っているのは調理担当者だ。
ホールの接客担当者との連携がどれだけ取れているかで全く変えることができる。

そのお客様に「今日はマグロがお勧めですすよ」と調理長が声を掛ける。
そして1人前の注文が入ったら、普段は5切れで提供するところを6切れにして、そのうち2切れを中トロなり大トロなりにしてお出しすると良い。
「中トロをオマケしておきました」と、それだけでい良い。
次からは空いている時でも、その2人はカウンター席が良いとなる。
1つの不満足を「借り」だと考えれば、即座にその分「お返し」をすれば良いだけ。
一度「不満」に感じたものを「満足」に変えることは容易くない。
しかし、難しくや面倒くさくは考えなくて良い。ちょっとしたこの繰り返しができれば、お客様からクレームをもらうことなど決してないと私は断言する。
そしてそのお客様はいつか常連様になっている。
「満足」と「納得」を使い分けることができれば私たちは強くなれる。
「あなたたちの気持ちはわかった」と納得してもらうことができれば、お客様次第でいくらでも変わる私たちに対しての「満足」のレベルを調整することができる。

今ではSNSなど世間に対応を拡散され、モンスタークレーマーのやりたい放題かと考えている人もいるだろうが、怖がることは何もない。むしろ「納得」を追求して、「借り」を返すことを大切に続けるならば、SNSで発信される内容は伝説となる店になる可能性がある。