真夏の差し入れ 常連のお客様の内にあるもの

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 店の人たちは知らない

日曜日以外、毎日17:30に一人で来店し、夕刊を読みながら1時間ほどで帰るお客様がいました。週休2日が定着してない頃ですから、仕事の日はいつも寄ってくれるということです。

その割に、挨拶とオーダー以外の会話は殆どしたことがない。飲み物も先ず変わることがないため、顔を見たら作り始めて間違いないほどです。酎ハイ2杯と料理が一品。お会計は1,200円前後という時代。

どこのどんなお店にも、毎日のように一人で来店するお客様は必ずいます。中には饒舌で、とにかく目立つ方もいますが、先ほどの方は本当に寡黙でした。
或る真夏の一段と暑い日、そのお客様がいつものように一人でみえました。
「暑いね。良かったらコレみんなで食べて!」と、アイスクリームを10個ほど差し入れてくれました。
こちらからは、毎日特に何をしてあげたわけでもなく、毎日来てくれていることへの感謝しかなかったので、むしろ逆になってしまった格好です。
自分たちが考えている以上に、そのお客様は店も、従業員も気に入ってくれていたのでしょう。むやみに話しかけず、ゆっくりと新聞を読む時間を大切にしたかったのだと思います。

 お客様は知っている

お客様と店の関係は、なかなか一言では言えないものがあります。ただ、どういう経営者であれ、どんな店長であれ、一つの「」がなければ、成り立たない。言葉を変えれば「哲学、理念、信念、主義、価値観など」。
食べ放題
お客様は誰よりも店のことがわかります。
それだけ観察しています。

店の従業員たちは、知っているつもりになっているだけで、実際の自店の価値さえ本当には分かっていないことが多い。

だから、売上が不安になると、見当違いの販売促進をします。
安くすればお客様は来てくれると考え、それに頼ろうとします。
年配のお客様の需要が多い店で「食べ放題飲み放題」をしようとします。
デザートやサワー、カクテルに力を入れて、若い女性客を増やそうとします。
ランチ営業をすれば利益も増え、おまけに昼のお客様が夜も来てくれると信じて疑わなくなります。

 独りよがりにご用心

みんな自分勝手な思い込みです。
多少高くても、上質のものが少しあればいいというお客様がいます。
女性にも日本酒や焼酎の個性や楽しみ方を、丁寧に説明し提案して欲しいと思っている人はたくさんいます。
ランチで行った店に、その日の夜は行きたくないもので、たまの宴会獲得には多少効果があるでしょうが、ランチと夜の客層は違います。むしろ人件費、原価と水道光熱費の追加分を回収して、ランチだけで利益を出すのは無理に近いほど難しいのに、とれを軽く考えがちです。

知ったつもりになっていることこそ、一度疑ってみると道は開けるかも知れません。自分の店の「」は何処にあるのか。くれぐれも勘違いのないように、自店の本質を掴むことが肝要です。