岡山県備前一宮・板野酒造場

 吉備の国の酒蔵

吉備津彦神社から離れて国道脇にある板野酒造場まで向かうことにワクワク感を覚えながらの時間を楽しむ。
水草が「中川」の川面に流れるように揺らぎ、中天に掛かった日差しに如何ばかりかの清涼感を添えている。
吉備の国の神話をまるごと抱え込んだようなこの町に、姿を見せるのはどんな酒蔵だろう。岡山市内から総社へ向かう国道は想像以上に車が多く、周りの景色の長閑さの中でやや違和感がある。
そこで目線の向こうに板野酒造場の看板が見えてきた。

これまでの経験で最寄り駅から苦もなく歩いて行けるという酒蔵は何処にでもあるわけではない。
殆どの場合、酒蔵が創業したよりも後から駅ができ、しかも、地方の駅は次々に無人化されている。
大概の酒蔵の近くには、山や川が景色の中にある。
酒造りに適した水が町中に湧くことの方が珍しいだろうし、伏流水を利用するにはそれなりの下地が必要なのだろうから、今現在ビルの立ち並ぶ中にあるわけもない。

備前一宮駅から徒歩で5分ほどの板野酒造場は、私にとってまさに都合の良い立地だった。
実はこの「板野酒造場」から北西方向へ10kmほどの所、足守川の上流に「二面(ふたも)」という銘柄が中心の「板野酒造本店」がある。それぞれは別会社で詳しくは聞いてないが、ご兄弟の一人が独立して前者を始めたのだろうと勝手に想像している。

 吉備津蔵純米酒

入口の暖簾が涼やかで気持ちも引き込まれる。
お店の方に許しをもらって店内の写真を撮らせてもらった。

中央の島にずらりと並んだ姿は圧巻で、この中から選ぶ楽しさも満載なのだが、魅力があり興味を惹かれる酒ばかりとなると話は違ってくる。
いろいろな話を伺いながら酒の表情ばかりに見入っている時、その上に静かに掲げられた手書きのPOPに気づいた。

元々、純米酒にこだわりがある私ではない。
しかし、「日本酒があまり好きではなかった店主…」というPOPの書き出しには目を奪われた。
酒蔵の店主が日本酒を好きではなかったことを堂々と知らしめることもあるまいと思いながらも、これには人一倍の興味を掻き立てられる。
特にぬる燗だと「味わいが変わる」とあるのでぬる燗がおすすめに違いない。

ここで先ず選択しなければならない1本が決まった。
お店の方とも、「東京から来て電車なんで2本が限度かなあ」と言いながら選んでいる。

この板野酒造場さんの主要銘柄は「きびの吟風」
・ 吉備津蔵純米酒
・ 純米酒雄町米
・ 限定蔵出し純米原酒
・ 極純米吟醸雄町米
・ 山廃桃太郎鬼退治山田錦80%精米
・ 牡丹鶴にごり酒
・ 吟風蔵搾り生貯蔵酒

 酒飲みの優柔不断

いやいや酒飲みというのは困ったものだ。頭の中では既に飲んだ気になりながら舌なめずりしている。持ち帰るもう1本はどうすればいいのか。
板野酒造場さんのもう一つの銘柄「牡丹鶴」の特徴なりを伺ったものの、情けないことに正確なことは忘れてしまってお伝えすることができない。
そんな時、お店の女性が魔の言葉を投げて来た。
「お送りしましょうか?東京なら何本でも1040円でお送りできます」

こんな罪な提案をされてはたまったものではない。
思わず聞いてしまった。
「カードは使えますか?」
答えは残念ながらということだったが、むしろそれが正解だったと思っている。でなければ欲望は果てしなく…

結局は更に話をしながら悩んだ挙げ句になんとか4本を選んだ。
そして送り状を書き、支払いを済ませて気づいた。
今夜の酒がない!

生貯蔵酒の300ml瓶と「酒粕ピーナツ」を手提げ袋に入れてもらい、再度お会計をしてもらってお店を出ることになった。


有限会社板野酒造場
https://www.ginpoo.co.jp/

株式会社板野酒造本店
http://www.futamo.jp/