この記事の目次
利酒師の少し勝手な意見
酒造りの工程は、何だかんだと大変なことが多く、詳しいことは、それに興味を持った時に知ろうと思えば頭に入りやすいはずです。細かなところになると、もちろん私も知らないことがいくらもあります。
覚えなきゃ!となると気が重いし、覚えることが先になって、面白さ半減。だから、「この旨さはなんでだろう」と興味が湧いている時がチャンスです。
細かい理屈よりも、ここでは「山廃」「生酛」の特徴を整理しておきましょう。
昔ながらの造り方と、現在の主流の造り方
先ずは酒造りの流れから。
ちょっとはしょり過ぎで、却ってわかりにくかったら申し訳ありません。
昔は、大きな桶に麹と水を入れて、櫂(かい)でかき混ぜながら、潰して酒母(生酛)を造っていた。その際に蔵付きの乳酸菌も空気中から自然に取り入れていたのです。
「生酛造り」や「山廃造り」が昔ながらの造り方で、速醸よりも時間がかかるために、雑味も含めて、深く個性的な味になることが多いのです。
このような生酛、山廃が好きな人は、どうしてそうなるんだろうと、興味も関心も湧くでしょうから、本を読んでも「なるほどなあ」ということになるはずです。
最後に、「乳酸菌」って、なんの役目なんだよ!って話しにもなりますが、それは機会があればまた別の機会に。
専門の詳しい説明
生酛(きもと)最も伝統的な日本酒製造の手法 自然界の乳酸菌の力で雑菌を排し、酵母を育成した昔ながらの酒母造りの手法であることと、山卸し(酛摺り=もとすり)と呼ばれる米を摺り潰す作業が行われたタイプのことです。明治時代以前は、ほとんどの酒母造りで行われていた工程でしたが、今では1%程度しか現存していません。非常に深いテイストで、燗酒などに向くとして復活しつつあります。
山廃仕込み(やまはいしこみ)自然界の乳酸菌から育成する濃醇な味わい。生酛(きもと)との違いは山卸し(やまおろし)の作業を行わないこと 生酛(きもと)造りで行われる山卸し(やまおろし)(酛摺り(もとすり)の作業は非常に重労働であり、これを解消するための研究が行われてきましたが、1909(明治42)年に国立醸造試験所の実験で山卸し(酛摺り)を行った酒母と、行わない酒母で、成分的な違いが見られなかったことから、山卸し(酛摺り)の作業は必要ないという1つの推論が発表されました。これにより「山卸し(酛摺り)の作業を廃止する」という認識が広まり、これを略して「山廃」と命名されるようになったのです。これにより「櫂でつぶすな、麹で溶かせ」という言葉が生まれ、麹そのものが持つ糖化酵素の力に注目が集まっていき、生酛系酒母の中の90%が山廃酛に変わっていきます。
速醸酛(そくじょうもと)
現代的な手法で造る淡麗タイプの日本酒 醸造用の乳酸を添加して、酵母を育成する酒母の育成方法です。1910(明治43)年国立醸造試験所にて開発された手法で、現在の約90%の酒母育成方法が速醸酛になります。乳酸菌が関与しないので、乳酸菌の副産物の影響がなく、生酛系酒母と比べて淡麗な酒質に仕上がります。