渋谷発の深夜バス 別世界の静寂

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 深夜バス 渋谷発・吉祥寺行き

終電に間に合わなかった時、場合によって間に合うルートが有ります。
私が時々利用いしていたのは渋谷です。仕事帰りですから私はシラフ。
これは、相当にミステリアス感のある世界のように思えませんか?

井の頭線の終電が出てから、約30分後。
井の頭線渋谷駅の下から深夜1:15分に旅立つバスです。
吉祥寺までは約1時間。料金は4人で利用するなら、タクシーと同じくらい。
土日祝(正確には翌日)の深夜は運行しません。いわゆる平日の24時を回った深夜の運行です。

新宿にせよ渋谷にせよ、夜の喧騒は皆さんの知る通りです。とは言っても、東京の深夜の繁華街をご存知でない方には申し訳ありません。
活気や騒々しさ、個性や怪しさは、昼とは異質化して渋谷の夜を支配しています。若者たちにとっては全く違って、前向きな意味だけを感じる力を持っているのかもしれません。

そんな喧騒を抜けて、深夜バスにたどり着く人たちは様々です。
このバスは全員着席制ですから、必ず席を確保できます。しかも予約は不要のため、気軽です。利用者が多いので2号車もあります。だからいつも安心してバス停に向かえます。

友だち同士で乗ってくる人は意外に少なく、いかにも酔っぱらいという人もあまり見かけません。信じられないでしょうが、バスは想像ほどには酒臭くないのです。路線の途中から乗車することはできず、渋谷から乗り込めば、あとは次々に降りるだけ。
夜は粛々と更けていきます。

 喧騒の中の静寂

予定時間を2分ほど過ぎてバスは発車します。
あの喧騒を抜け出してきた人たちを乗せて、バスは渋谷のスクランブル交差点を渡り、スルリと公園通りに向かいます。

通りを歩く若者たちの姿はまだ絶えません。渋谷の真ん中を走るバスと思えない、異空間です。 かすかな寝息が聞こえこそすれ、話し声は耳に届きません。
バスの中だけは深夜、静寂そのものです。

渋谷公会堂を左に見て曲がり、NHKの横を過ぎていきます。
窓の外には、深夜も営業している「おしゃれな店」の洗練されたライトアップが目に入ってきます。店内にはお客さんの影もみえています。

バスの中の静けさ。
あの喧騒をこうして離れていくバスが、何だか別の生き物のように見えてしまうのは、私の勝手な思い込みに過ぎないのでしょう。

繁華街の深夜でしか需要のなさそうなバスが、ほぼ満席状態のお客さんを乗せても、静かに、ひたすら静かに、夜の街を滑って行きます。
大都会の深夜バスは、我が身を振り返る瞑想に、最も相応しいのかもしれません。