不思議なものだ。
とある駅前の有名ファストフード蕎麦屋、いわゆる名代◯◯そば。
自分の券をカウンターに出し、奥の席についた。
そこで異様な空気に気づいた。
七、八人の先客が半券を手にして席につきながら、全員が姿勢を品出しカウンターに向けて固唾を呑んでいる。
みんなの目が釘付けになって、真剣そのものに見えることに驚いた。
誰一人よそ見などしていない。
イッタイなんだ?と思ったが、要は順番を待っているだけ?
ところが、まるで真剣勝負のようだ。
カウンターの中では、きっとそんな空気にはミジンも気付くふうはない。
前方180度の全てから飛んでくる鋭い目線をものともせず、切り返すが如くに、半券の番号で順に呼び出しては、片付けていく。
どんな待ち方をしようが、スピードにも順番にも影響はなかろうにと思うが、この人たちにはお構いなしだ。
カウンターを向いたまま姿勢を崩さない。
カウンターを向いたまま姿勢を崩さない。
自分は真剣勝負には自信がなく、客席の猛者たちの様子を眺めるのが精一杯だ。
うん、四人は切り捨てたな。
しかし、まだ三人いる。
「74番の天ぷらそばとミニ親子丼セットでお待ちのお客様!」と呼ぶ。
また一人ここで、競馬新聞を持った親父を片付けた。
すぐに返す刀で
「75番の特製肉うどん大盛りと稲荷でお待ちのお客様!」
この人の制服は駅員さんだ。
おお、残りは入口近くの若者一人だけだな。
何だかカウンターの担当者を応援しているような気分になってきた。
さあ締めだぞ!と心の中で声をかけたら、そら来た!
「76番のカツカレーときつねそばでお待ちのお客様!」
よーし、やったなあ、みんな始末した。
今日は変わった景色と、いい勝負を見せてもらった。
やるもんだなあと感心して、カウンターの勝利者の表情を見ようとしたその時。
「77番のモリそばでお待ちのお客様!」
なに?まだ残っていたか?見回したが誰も見当たらないぞ…?
「77番のもりそばでお待ちのお客様!」
おっ? あっ? 自分だ!自分が残っていた。
既に堪能してしまった自分がいた。
先客たちに比べて、注文内容も姿勢も自分の勝負麦は「弱いなあ」と、気づいてしまった。
負けた…
が、清々しい。
しかし、こんなに緊張する駅蕎麦は初めての経験だった。
しかし、こんなに緊張する駅蕎麦は初めての経験だった。