寿萬亀 余章 菜花と筍

この記事の目次

 寿萬亀の夜

その夜は、初物のカツオと一緒にいただくことになった。勝浦の地場スーパーに寄り見繕ってみたが、やはりこの時期はカツオ。これしかないとなった。
・ 寿萬亀上撰
・ 寿萬亀昔の酒 亀田秘伝仕込み純米原酒
特にこの原酒はぬる燗が合いそうだ。

気取らず精米70%でアルコール17度。
「昔の酒」の意味を尋ねて説明も受けたはずが、頭の中から全く消えてしまっている今、詳しく紹介できない。
結局の所、どちらも燗にしてみるでもなく、そのまま後先考えず飲みきってしまうことになった。
上撰は蔵のホームページにこうある:

淡麗な口あたりとなめらかな喉ごしの調和のとれた酒で、常温でも燗でも旨いお酒です。

・アルコール 15度
・酸 度   1.2
確かにそのとおりで、飲み飽きもせずスイスイと進んでしまう。
その点「昔の酒」。
飲みごたえもあり、米らしい味を感じるやや重厚な酒。やはり燗に向きそうな個性を感じる。
地元での食材と共に楽しむことで両者とも十分な満足をもらうことができた。
こんな楽しみ方は東京にいては叶わない。千葉は隣県とは言え、こういう時間と場所は大切にしたいものだとつくづく思う夜だった。

 カツオ船は高知から

翌日は勝浦港へ立ち寄った。
ちょうど一隻の船がカツオの水揚げ中で、キラキラと輝く姿がレーンから大きなコンテナの水槽へ次々に飛び込んで行く。こちらが邪魔になっては悪いと思い、近づいて写真に収めることは諦めた。
船体には「高知」の名前があった。
勝浦のほうが首都圏に近く市場へも早く届けられる。もしかしたら大手契約スーパーの店頭に夕方には並ぶのかも知れないと思うと、少しワクワクしてくる。

勝浦の朝市通りは疎らになっていて、今日はすでに店じまいしたところがあるのだろう。遠くから見ただけに終わったが、人は少なかったようだ。
古い港町の勝浦は私が知っている40年前から比べて、すっかりと静かになっている。ここにも各地方の町が抱える問題が同じように透けて見えてくる。

かつては地元の生活に根ざしていた朝市が、大規模駐車場を備えた大型スーパーの進出で役目をなさなくなる。車文化が一時は観光も含めて町を発展させ、次には車のせいで町から人がいなくなる。町の商店は消えていき、車でなければ生活できない環境が残る。生きるために、免許証の返納などはできるわけがない。
便利さで生活をスピードと規模で発展拡大してきた車文化が、実は身近な生活を破壊してきたことに気づかなかったのだろうか。
常識と思っているものを一度捨ててかかることがこれからは必要だと私は考えている。
今回、ここまで車を利用してきた私だが、その車を捨てて、さあどうすれば人間は行きていけるかと考えてみるのも大切なのではないかと真剣に思ってしまう。

 食用菜花

春の景色に菜の花が咲きそろった頃が終わると、食用の菜の花を都内で見かけることは皆無になる。4月にはもう美味しくいただくことができない。ところが飲食店としてはこれが寂しい。おひたし、辛子和え、天ぷらであれもうしばらくおすすめ料理に加えておきたいのが本音だろう。そして菜の花と入れ替わるように市場に並び始めるのが筍。
この千葉県は首都圏の中でも筍産地としては誰もが知るところで、千葉県の道の駅や野菜直販所には朝どれの瑞々しい筍が店頭で主役になっている。
ちょうどそんな時期の東京への帰途の中で大多喜町近くの道の駅を訪ねた。
入ってすぐの陳列場所には当然のように朝どれ筍の立派なものが並んでいる。
自宅の鍋の大きさとも相談しなければならないサイズと、その滴るばかりの瑞々しさは格別の商品価値であることがわかる。

さらに奥へ進むとナバナががあるではないか?
しかも希少ではない量で一袋100円。
その隣に同じように見えるものに「白菜」と表記がある。自分の中で訳がわからなくなった。それはナバナよりも葉の形が大きく茎もいくらか太いよいうに見える。農業なり農家なり農作物なりが近くない私には想像できないものがあるのは確かで仕方ないことだと自覚する。

素直に聞くに限ると疑問を投げかけてみると、この白菜は、冬に収穫をせずそのままにしておくと茎が伸び蕾をつけるそうだ。「トウのたった」白菜ということだった。白菜の「とう立ち菜」とも呼ぶようだ。そんな姿など見たことのない私にしてみれば、自然の中に生きるものの力強さとはそういうことなのかと、思い知らされた感じになる。
道の駅たけゆらの里
https://www.takeyura.net/

千葉の道行きはいつも何かの発見がある。
そしてここに物を作る育てるということの意義や本質が、少しばかりでも日本酒づくりと同様に長い歴史の中で積み重ねられた知識であり技術なのだと、知るには良い機会となった。
幾つになろうが世の中は知らないことばかりだと、自戒と共に思えるのだった。
現実の毎日に戻る時が近づいてきた。

コメント

  1. オブナイ より:

    寿萬亀とカツオ、うまそうですねえ🤤