寿萬亀 急章 酒蔵の与えるもの

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 南総の酒蔵

期せずして訪ねることができた亀田酒造、寿萬亀の醸造元だ。
前章でも記したとおり、ここへ来ることを見越して走ってきた道ではない長狭街道。何かがありそうと思いながらに酒蔵へ来ることができた。
寿萬亀の銘柄には、昨年から松戸の観光案内所での「千葉県産酒フェア」でお馴染みになっているが、訪ねたのは初めてだ。

寿萬亀 亀田酒造

南房総の酒蔵としてあまり意識してなかった私は、幾分申し訳ないながらこの日は楽しませてもらうと決めた。
松戸の千葉県産酒フェアの時に説明された、南総里見八犬伝の由来から造ったお酒があることを思い出した。
蔵のホームページから:

『戦国のアルカディア』プロジェクト始動!戦国の武将をテーマに松本零士の新たな世界が幕開けします。その第一弾は全国47都道府県の日本酒の酒蔵とのコラボレーション。
寿萬亀亀田酒造株式会社
http://jumangame.com/

選び抜かれた各県代表の名将・武将が松本零士キャラクターとなって今、甦る!と言った企画。
千葉県には有名な武将がいなかったことから「南総里見八犬伝」の登場人物をキャラクターにしたそうで、そのラベルを携えた日本酒もある。いわばその企画の千葉県代表酒ということ。
これも楽しむには一興ということになる。

 酒蔵の与えるもの

玄関の上に掲げた木の看板は、軒に下がる簾とともに時代を超えた風情で溢れていて、訪ねてきた人を迎えてくれるには十分な趣を湛えている。
酒蔵にはお決まりの酒林がその横で見守っていて、まさに酒蔵に相応しい佇まいだ。

寿萬亀 亀田酒造


玄関先だけでしばらくそのまま時間を過ごせそうだが、そうもしていられない。暖簾をくぐり入れてもらうことにした。

店内の撮影は控えたために用意できないことをご容赦いただきたい。
高い天井から下りてくる空気は静かにやや冷ややかで、店内の陳列商品を優しく包み込んでいる。
カウンターの中にいた方に声を掛けると、「先ほどまで室(むろ)の中にいましてね、汗びっしょりでした。」と状況を説明してくれた。まさに杜氏さんが店頭に立って販売にも携わっているということだからこころ強い。
私のいつものことで大吟醸には目もくれず、この日この場でした手に入れることの出来なそうなお酒ばかりを探している。
試飲会などでは先ず普通酒にお目にかかることはできず、地元で長く愛飲されているお酒には蔵元でしか出会えない場合が多い。しかし、こうして店に並ぶお酒を眺めていると、その数々に目移りしてしまう。いわゆる昔ながらの佳撰、上撰、純米原酒、などなど。

さて今夜の酒はどれにしようと、悩みは尽きない時間を過ごすことになる。
ところが、これこそが至福の時間と言えなくもない極め付きの贅沢だ。
酒蔵を訪ねるということは、まさにこういうこと。
その酒の向う側にある次の時間を考えることができる。
その酒が運んでくれる少し先の未来の価値がある。
酒に限らず、その商品を手に入れることで見えてくる未来にこそその商品の価値がある。
商品の魅力とはそういうものだろう。
飲食店であれば、そこで時間を過ごすことで何を手に入れるかが貴重なことなのだ。そして、それに応えられるかどうかが店の価値になる。

 今夜のご馳走は

そろそろ今夜の酒を決めなければならない。
・ 寿萬亀上撰
・ 寿萬亀昔の酒 亀田秘伝仕込み純米原酒
私たちが選んだのはこの2本。
特にこの純米原酒はここでしか手に入らないらしい。
なんと魅力満載ではないか。
・精米歩合  70%
・日本酒度  +3
・アルコール 17度

持ち帰って自宅で飲む場合と、地元で飲む場合では、きっと味も違って感じるはずだ。
鴨川から海岸線を北に登れば御宿の前に勝浦がある。
関東では有数のカツオが水揚げされる港がある。朝市で有名なこの町は、季節柄のご馳走を探すには最適の町だろうが、昔とは様子が違い、かつての活気はかなりボルテージを下げている。
そうは言っても、寿萬亀と共に、勝浦で何があるかに期待をして向かおう。

日暮れにはまだ早い。