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好きなばかりに
酒の自販機は、今はまず見ません。
そんなものがあったことさえ忘れた人もいることでしょう。
未成年者の飲酒問題と、コンビニに酒類が並んだこともあって、お役御免となったようです。
私もお世話になったことは何度もあります。
仕事の帰りに、閉店後の酒屋さんの前で小銭を探ってどの缶ビールを選ぶか迷ったものです。
中でも一番忘れられないのは、さらに前の、コンビニなどない頃の話です。
友人と新宿で仕事をして、その帰りのことです。
冬の寒い夜だったことを覚えています。
終電ですから、自宅の最寄り駅に着くのも深夜1時近く。 当時の住まいが二人とも近かったこともあり、不運にも同じ駅で降りるのです。何しろ、その友人も飛び切りの酒好きときています。
「熱燗を飲みたいねえ!」と駅に着くや否や、予想通りに言ってきます。しかも「熱燗」だと。
当時は今と違って、そんな時間に開いている飲み屋といえば寿司屋くらいです。居酒屋が当たり前に深夜営業をするようになるのは、それから何年か後です。ましてや酒屋で開いているところもありません。
もちろん自分たちには「寿司屋」を選択できる余裕などはあるはずもなし。
「うちに買い置きはないよ」と私。
「そうだよね…」
「諦めるか?」
「自動販売機だ!」と友人。
「その手はあるなあ」
「俺はワンカップ大関が入っているのを見た」
「うん、そうしよう」
この画像は当時のものではなく、最近のワンカップ大関、しかも大吟醸
ワンカップ大関を求めて
しかし、ここからが大変です。
二人で手持ちの硬貨を数え始め、どの酒屋から攻めるかを相談です。
確か、その頃の「ワンカップ大関」は1本200円ほどだったと思います。さらに、当時の自販機に1000円札が使えるわけもない。正確には覚えていませんが、駅で両替をしてもらったように記憶しています。
10本は欲しいなと言いながら、探し始めました。
先ずは、駅の反対側の商店街にある酒屋からです。
救いだったのは、今よりも酒屋の数が多いこと。
しかも、どの商店街のどこに酒屋があるかを、なぜか把握しています。
ところが、なかなか「ワンカップ大関」が入っていません。
自販機のない酒屋があることにも、この時初めて気づいたりしました。
やっと見つけた自販機で、喜んだのも束の間、3本で売切れ。
何軒回ったでしょう。
ありったけの硬貨を使いきって、ワンカップ10個を手に持つのにも苦労し、入れられるだけポケットに突っ込みながら、二人寒空の夜中を30分以上さまよって自宅に辿り着きました。諦めて真っ直ぐに帰っていれば5分ほどで帰れる道のりなのに。
今では考えられないことでしょうし、当時だって真似をしたい人は、きっといなかったはずです。笑い話にしかなりません。
やっとの思いで帰ってくると、今度は燗をつけるために何度もいちいち立ち上がることさえが面倒です。
鍋に湯を沸かし、コタツの上の電熱器(これも今は無い)に乗せて、二人向かい合い、その鍋に自分の分のワンカップを入れて燗をするのです。
まさに昭和そのもの。
こうしてまで、日本酒の燗にこだわった若い頃から、現在も私は「燗酒」大好きです。日本酒ならではの楽しみ方の基本です。
コンビニの棚で「ワンカップ大関」を見ると思い出す。
今でも貴重な「酒奇行」です。