東中野 親子歴代のお馴染みさん

おかげで長い間営業していると、居酒屋のお客様は思いもかけぬ歴史を教えてくれます。
JR総武線の東中野。
新宿から2駅の場所ながら、かなりローカル色のある街です。

東口には「ムーンロード」という如何にもの路地に、小さな飲食店が詰まった通りもあります。今ではかなり様変わりしましたが…

私が見ていた店はそのムーンロードの近くで、すでに30数年の歴史がありました。線路沿いの道路に面していて、駅のホームからも見えるため、来たことのない人でも、「電車から見てたよ」という人がいた立地です。
道路の線路側の塀際には、その昔に屋台が何軒か並んでいたこともあって、古くからのお客様とは、その屋台の話で盛り上がったこともあるくらいです。
ある日、30代の男性のお客様と話している時にこう言われました。
「ここは父親がよく来てたんですよ。」

いろいろ伺うと、一緒にいらしたことはないそうで、最近では自分の方がよく来ていると言うことでした。

東中野表の樽

親子で継いで通ってくれるには、おそらくご自宅でこの店の話題があることまで想像して、長年やって来たこと、やって来られたことの意味を感じずにはいられませんでした。地域に住まう人の日常に入ることができる。地域に受け入れてもらえているという感謝。
親子で歴代通ってくれているという深さは、やはり違います。
店を営むということの本当の在り方を、実感として教えてもらった気がしました。

個人営業の飲食店の場合は、親子で店を引き継いで営業するケースはたくさんあります。上手く続かどうかの問題はあるとしても、そうして世代を継いでも続けられるとしたらありがたいことです。
ところが、お客様の方が親子で通ってくれることは本当に稀です。
30年の間に、東中野駅の西口にある山手通りが拡幅されて、新しいビルも建ち並び、街の様子は随分と変わってきました。時代は変わっています。
残念ながらその店は、一年ほど前に改装して後、別の屋号に変わって、今は気軽な天ぷら専門店として営業を続けています。
果たして親子歴代の方は、来てくれているでしょうか?