以前にも一度紹介したのですが、「越の三梅」について、もう一度詳しく見直していきたいと思います。
この記事の目次
越の三梅とは
言わずと知れた銘柄ですが、最近ではこの「越の三梅」という言葉を余り聞かなくなたので、改めてピックアップします。同じ新潟でもうひとつのブランドとして「越の三鶴」と呼ばれる銘柄もあるので、そちらについてはもうしばらく後に紹介できればと思います。
– 越乃寒梅
– 雪中梅
– 峰乃白梅
この3銘柄が「越の三梅」と呼ばれています。ここでは私が実際に飲んで経験したことや、詳しい人に聞いた話、何かの本で読んだことを織り交ぜながらのことになります。もしも万が一事実と大きく違ったり、認識違いだったりがあった場合はお詫びします。従って、一つの意見として参考にしていただければと思います。
因みに「越の三鶴」は以下の三銘柄です。
– 〆張鶴
– 越の鶴
– 鶴の友
越乃寒梅
1980年頃には地酒といえば越乃寒梅と言うくらいに有名な地酒になっていました。しかし、既にもう手に入らない酒としても有名で、まさに幻の酒。現在で入手が難しいというレベルのものと比べても、比のないくらいに先ず目にすることないお酒でした。
さらに級別で売られていた時代ですので、現在の感覚からは想像しにくいでしょうが、もしも飲食店で二級酒を置いていたとしても、平気で1杯1,000円などという価格で販売していた記憶があります。今とは物価も1/2ほどかと考えれば、尋常なことではありません。
特に、淡麗辛口の新潟酒の代表として新潟酒全体の人気を高めると同時に、淡麗辛口一辺倒のような日本酒シーンになってしまったのも確かです。越乃寒梅の酒蔵に責任はないものの、良くも悪くも最初の地酒ブームの功罪の両方を担うことになってしまいました。
そして、弱小酒蔵が大手からの「樽買い」で、自社で造れない分を自社のラベルにして販売して凌いでいるという話が表面化してきたのもその頃からです。
雪中梅
こちらについては私があまり詳しくないので、聞いたり見たりした範囲で記載します。
この3社の中では圧倒的に小さな蔵で、実質地元以外に出荷するのは一部だったそうです。しかも淡麗辛口とは一線を画し、新潟の甘口酒の代表的な銘柄としての存在でした。甘口とは言っても、もちろん甘ったるい酒ではなく、すっきりと喉越しの良いお酒だった記憶があります。
越乃寒梅と比べても、この雪中梅の方が間違いなく幻でした。地酒ファンの中でも、噂には聞くけれど、見たこともましてや飲んだこともないという人が多かったのではないでしょうか。
私自身、その頃に酒屋さんの棚や冷蔵庫で見たことはありませんでした。ある程度の知識をもって雪中梅を口にしたのは、そんな時代から数年後でしたから、最初の印象はうろ覚えであることはご容赦ください。
峰乃白梅
当時からこの銘柄は決して手に入りにくいものではありませんでした。むしろ今の方が見かけることが少くなったような気もします。最近で私が試したのは熟成酒の集まりでしたので、改めての印象が偏るかもしれません。しかし、この峰乃白梅については鮮烈な個性ではなく、意外と地味なお酒で、淡麗辛口にも属さないという思いが残っています。
今思えば、味わい深く燗酒に向きそうでした。というのも燗にして飲んだ記憶はないのです。もしかすると一般に通っている新潟酒とは違うため、好みも別れるでしょう。もちろん今では、純米だとか吟醸だとかに分けて見た方が良いでしょうから一概に決めつけないことです。
ただ、この三梅の中では一番もてはやされなかった銘柄です。だからこそ、じっくりと自分の酒造りを続けてこられたとも言えます。越乃寒梅が世間に翻弄されたことを考えると、峰乃白梅については好対照に、そっとしておいてくれてありがとうという感じです。
越乃寒梅から八海山
越乃寒梅が大人気になって、当然に酒造りが間に合わなくなります。そんな折、越乃寒梅に八海山が樽売をしているという話が持ち上がりました。このことはいずれ正式発表されたと聞いていますから事実だったのでしょう。昔の一級の純米酒以上は越乃寒梅の自社醸造だと聞いたことがありますので、一級の純米以外と二級酒の中身は八海山だと言いうことになります。
そんな話からか、八海山の人気がうなぎ登りとなり、今でもその人気は変わらないようです。当然、途中から八海山としても樽売りする余裕などなくなったでしょうから、真の実力で認められたわけです。
そのお陰もあって、今や八海山は新潟でもトップクラスの銘柄として全国区の代表地酒になりました。
このことの細かい部分には事実誤認があるかもしれませんので、私が聞いた話としておいていただきたいと思います。ただ、事実として、30年ほど前に私が八海山まで伺って交わした話を紹介しておきます。これはかつての越乃寒梅が悩んだであろうことが同じく想像できるので参考にしてください。
その頃、八海山は引き合いが多く、メニューに入れても品切れを起こす飲食店が続出していました。私が仕事していた店舗では新規格の本醸造(少し黄色いラベル)を1杯600円で置いていました。ところが、世間では、当たり前に1,000円もらっている店舗も多かった時代です。
当時の副社長の言われたこと
「1杯600円で売ってもらえれば、他のお酒に負けないだけの自信はあります。しかし、1,000円となると話は別です。比べられたら、八海山は美味しくないと言われかねない。600円で売ってくれるなら、品切れしないようにお出しします。」
越の三梅を思う時、私は常にこの八海山の本音を思い出します。異常なほどの人気になると世間ではプレミア付きの価格で取引されるようになり、其の値段で買った飲食店はそれに見合った値段で売ろうとして実力以上の値段になる。私が扱っていた八海山は、ディスカウントショップで5,000円以上(本来の2倍以上)の値段で棚に並んでいたりしましたから、蔵元にしてみるとかなり危機感を持っていたはずです。
越乃寒梅と雪中梅の近況
このどちらも内容は時代とともに変わって来たことでしょう。でも、最近では時々、酒屋さんやデパートでよく見るようになりました。通販サイトなどでも正規の金額で取引されていることがほとんどのようで、安心にはなっています。
昔のブームで右往左往させられた頃とは経営陣も変わっているでしょうし、新しい取り組みで巻き返しも図っていることでしょう。昔ながらの大切なものを守りながら、新ブランドも登場しています。
それぞれ居酒屋でとんでもない値段でメニューに載ることもなくなりました。味の評価や今後は、新しい消費者の需要に任されることになります。かつて越乃寒梅の一番つらかった時期、飲む機会に恵まれたことがありました。正直なところ、もう一杯とはなりませんでした。でも、今の越乃寒梅、良いですよ。八海山とは、はっきりと違う路線を進んでいるようです。
雪中梅も爽やかな切れの良い甘口酒で、こちらも手頃な価格からして庶民の味方です。甘口酒が好きな方で、もしもどこかの棚や冷蔵庫で見つけたら、試してみるといいでしょう。720ml瓶で1,000円程ですから、お得な内容のはずです。
世間のおかしな情報に振り回された挙句、設定価格よりも高い値段で買って得するお酒など、絶対にありません。造り手の苦労と努力を、流通と飲食店がぶち壊しにしないよう、十分に配慮して欲しいと思います。
前記事: 「越の三梅」、今ではその言い方も幻?
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