意外な大分城

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 大分の町

過去に大分市を訪ねた時もほとんどの行動時間は日暮れ後で、明るい町並みをゆっくりと見て回ることは先ずなかった。
そこで豊後竹田から小倉へ向かう日に大分駅で途中下車し少し歩いてみることにした。
とは言っても3時間ほどしかなく、どこかの名所を巡るような余裕はない。
地図でみて歩いていけそうなところに大分城と大分県庁舎、大分市庁舎があることがわかった。
駅の観光案内所で聞いてみると訳なさそうだった。

幸い天気もよくアーケードの商店街ではなく、駅から真っ直ぐのバス通りを歩いて向かうことにした。
途中、高速バスターミナルのようなバス案内所と待合室を兼ねた所があった。
そんなん混み合ったようでもなく、人々が和やかに談笑している風景が印象に残ったのは気のせいなのだろうか。

程なく大きめの交差点に着くと、目の前に不思議なオフジェ?が横たわっている。猫が横になって高く片手を上げている風な姿。しかもやや小憎らし気な印象は私の考えすぎかとも思う。
近づいてみると「巨大寝ころび招き猫」という看板が右側に立っている。
なるほど、どうやら私はこの招き猫に呼ばれてここまで来たらしい。
この猫が可愛いかどうかはそれぞれの思いに任せるとして、この交差点の右側に大分城、県庁、市役所があることがわかった。
さて、お目当ての大分城の存在はまだよくわからない。

 大分城

堀の向こうに小さな櫓の姿が見えてきた。
奥には何となく工事中のような大きめな建物が浮かんで見える。
「そうか、大分城は改修中なんだ…」と思いながら堀を回って門に向かうことにした。
ところが何だか様子が変だ。
郭の敷地内に入って眺めるといよいよ変だ。

回収中かと思った姿は、いわゆる足場を組んで城の形にしただけの不思議な出で立ちだった。
小さな案内所のような建物を訪ねると、ボランティアと思われる年配の方が「夜にはライトアップして綺麗ですよ」と自慢するでもなく教えてくれた。

私はしかし、全くがっかりすることもなくそのまま素直に受け止めることができたのが今思っても不思議だ。
むしろ感心した。
無いものは無いんだから、その上で天守閣の楽しみを提供できれば素敵なことだと本当に思ったのだ。

いいアイデアだ。
物事には割り切りも必要で、できることの中で如何に最大限に意図を表現できるかは大切な才能だ。
私には、大分城はたしかに在ったと自覚できた。

 大分銀行赤レンガ館

大分城から駅方向へ行くとすぐに県庁の庁舎が見えてくる。
新旧の庁舎が並ぶように建っていて、私が入っていっても快く受け入れてくれるほど、雰囲気は優しい。

この上階にいけば、一昨日に大分名物の椎茸を熱く語ってくれた職員の方もいるんだろうと思うだけで、こちらも何だか熱い思いになってくる。
大分県庁前を通り過ぎ、ちょっとオシャレな通りを右へ曲がると確かにそれなりの雰囲気が伝わってくる。

そこから大分駅へ向かう途中に赤レンガ館がある。
2年前に通った時はまるで記念館程度にしか感じなかったが、今回はその中に店舗がある。
「Oita Made Shop」という店だ。
地元大分に由来する商品を集めて販売しているのだが、どちらかというと展示していると言ったほうが良さそうで、この場所に来ると大分の良さがひとつひとつ伝わってくる。
「タウトナコーヒー 赤レンガ店」というカフェも店内に併設されているので、私はそこでのアルコールは控えてコーヒーをいただいた。

静かに店内を眺め回しながら、遠慮なく雰囲気を味わってみる。
案外、人は自分の地元を知らない。
知らないというよりもその「良さ」を知らない。
誰にも自分にとっては当たり前のことが他人には当たり前でないことが多いのだが、それには気づいていない。

大分にとってカボスは当たり前に存在するが故に、カボスには無頓着だ。
その大いなる価値を表現することすら持ち合わせていない。

私たちは自分の周りにある、他とは違う特別に誇れる価値には気づかないようだ。その価値の重さは今も何処かで、風に吹かれて揺らいでばかりなのかも知れない。