この記事の目次
九十九里は波静か
うららかな晩秋の外房を九十九里浜沿いに九十九里有料道路を南下すると、その終点に近いところに一宮という町がある。車の中でも4人はマスクでいる。これがこの時の新型コロナの影響だ。
先ずは目的の場所に行く前に海を見ようと立ち寄ったのは一宮川の河口あたり。「九十九里有料道路一宮休憩所」に車を止めた。
そこからの眺めは目の前に開けた海からの波が打ち寄せながら、まるで川をのぼっていくように見える。地元の友人の言ではこれでも珍しくベタ凪だそうだ。風もなく暖かな陽射しが心地よい。
そのままいてもいつまでも飽きないでいられそうではあったが、小ぢんまりと可愛らしい休憩所に入ってみた。
ちょうど昼時で、中には3人ほどお客さんがいてイートイン名物らしいカレーの香りが漂っていた。土産物の珍味などと一緒なって鼻と胃袋をくすぐってくる。
ここで落ち着きすぎてはいけない、まだまだ我慢だ。
ここは目的の場所ではない。
さあ、グッと堪えて出発しよう。
千葉県道路公社休憩所
http://www.chiba-dourokousha.or.jp/kujyukuriyuryo/
稲花は昼静か
一宮の町を過ぎ東浪見(とらみ)まで来る。
先ほどの休憩所から4~5kmというところにかねてから寄ってみたいと思っていた酒蔵がある。
一見大きな旧家としか思えないし、煙突に気づかなければ酒蔵だとの主張もないような佇まいだ。
大釜の蓋と思われるものを立て掛けて「稲花」の文字の横に大きな「P」。この畑の一角にある空き地が駐車場だろう。
少し歩いて近づくと先ほどの大釜の蓋の片割れと思しき看板には「稲花醸造元」とある。創業文政年間とあるからもう200年になる。以前から目にしたことのある銘柄ではあるが日本酒の銘柄として「稲花」とはかなり気が利いている。
13時前で人影もない。昼の休憩時間なんだろうなあと勝手に決める。不用心と言えばまさにその通りだが、そののんびりとしたところがたまらない。
もっともこちらとしても予約をしたわけでもなくふらりと立ち寄ったに過ぎないのだから迷惑にならぬよう気をつけるのが礼儀だろう。
事務所の横のおすすめの張り紙を見てから開け放たれた倉庫に入らせてもらう。入口からすぐのテーブルの上には四合瓶の商品がずらりと並べられていて、それを見られただけでも十分に達成感がある。
訪ねたのは11月の初旬だから酒蔵としては一番忙しい時期で、蔵人の邪魔をすることだけは避けたいと思っていたら、一人の女性が庭の向こうから「いらっしゃいませ」と姿を見せてくれた。
勝浦は夕陽も静か
稲花では1本を手に入れ更に南下するが、その前に128号線沿いのうどん屋で昼食。ここがなんとも美味かった。出汁はカツオの効いた透き通るような関西風で、うどんはもっちりと腰がある。関東ではまずお目にかかれないうどん。私にはまたとないご馳走だった。
向かうは勝浦なのだが途中にこれまた寄らねばならないところがある。
大原の「木戸泉」、御宿の「岩の井」。
好都合と言うには企み通りと言うべきだろうが、これほどに酒呑み心をザワツカせる街道は少ない。勝浦まで行けば「腰古井」「東灘」の二蔵も近いのだから膨らむ夢は果てしない。
宿に荷物を置くと、せっかくの勝浦だからと地元の老舗スーパーに魚を求めにでかけた。ホテルの料理だけでなく、今夜は取り揃えた酒を並べて地元の魚を相手にじっくりと過ごそうと決めていた。
この季節は夕暮れも早い。
買い物に行く前に勝浦港に行くことにした。
陽は随分と傾き港の向こうに見える岬の上へ降りようとしていた。
朝の早い港の夕暮れ時は静かだ。そして見る見るうちに陽は沈んでいく。
稲花、木戸泉、岩の井が待っている。