神田ガード下から おでん屋について考える

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 おでんと酒の魅力

残念ながら店の名前は忘れました。

最近寄ってないので、もしかしたらすでに店じまいしているかもしれません。
JR神田駅のガード下といえば、かなりディープな飲み屋街と思っています。

場所によっては入れ替わりも多いですが、相当長く続けている銘店もあります。

その中でも秋葉原よりに位置するおでん屋さん。
一階と二階のある、上下で12坪ほどの小さなお店です。
一階はL字のカウンターのみ、7人位でもう無理です。
そしてその角には大きなおでん鍋。薄めの出汁の中には定番素材が静かに並んでいます。

崩れやすいじゃが芋まで。上品な味を含んで、みんな美味しそうな顔をしています。客単価としては4,000円ほどのお店です。

このおでん屋さんのもう一つの看板は、兵庫「白鷹」の樽酒。二斗樽をカンターの隅に置き、下の栓を緩めながら一旦片口にとって注いでくれます。これがまた格別の魅力でした。
おでんのタネは、人それぞれに好みが分かれますね。
凝った仕込をしたタネが売りの店もあり、一括りにできないのもおでん屋さんです。
歴史のある老舗から、ある意味コンビニまで。

 おでんの基本

おでん鍋

おでんの専門店などで飲食した時に、「おでんは意外と高いなあ」と思ったことがありませんか?

少し凝っているなと思いながらも、レンゲに乗るほどの量感だったり、厚めに切ってあるとはいえ、大根が300円以上だったり。

最近私がきいた声にも、「何だずいぶん高いなあ、コンビニなら80円だよ!」
こればかりは、コンビニと一緒んしてもらうと「おでん屋」の立場はなくなるので論外ですが、おでんには案外知られてないことが2つあります。

 時間と手間

おでんというのは準備に結構な時間と手間がかかるものです。要は人件費がかかるということです。しかも想像以上に。
例えば、大根だけでも、皮を桂剥きし形を整え、綺麗に美味しく仕上げるための下茹でをし、そのあと十分に味を含むようにコトコトと煮て、提供できるようにするまで、真面目に作るなら少なくとも3時間以上かかります。

店によっては前日から仕込んでいるところもあるかも知れません。しかも、大根だけではありませんからね。

本当に美味しいおでんを食べてもらおうとすると、諸々考えれば、17時の開店に間に合わせるのは、12時出勤で間に合うかどうかです。ランチなどやっている余裕はありません。
店のクォリティーによっては、その時間でも到底間に合わないでしょう。

 お腹に溜まる

おでんは、かなりお腹に溜まること。
ひとつひとつの大きさにもよりますが、コンビニの大きさで10種も食べられますか?食べれば、他の料理には殆ど手が出せず、酒ももう飲めなくなります。
コンビニの値段であれば、一人800円ほどの料理単価にしかなりません。

その単価ならおでんの原価が20%でも、人件費を考えれば、飲食店では利益は出す、商売にはなりません。

原価20円ほどの玉子を、おでん屋さんで150円~200円もらうのも、当然なことなのです。できるなら1個200円の烏骨鶏の玉子を使って、500円もらってみたいですね。
大量生産のコンビニのおでんと、ひとつひとつ手作りの飲食店のおでんを比べられては、その時点で見当違いも甚だしいことになります。

 コンビニの悩み

コンビニが今、おでん屋だけでなく、居酒屋をも苦しませることに…

私も以前におでんを看板にしていた店で仕事をしたこともあるので、おでん屋さんの難しさは実感しています。

おでんはコンビニの大ヒット商品です。ところが、おでんだけを考えれば、これが意外とコンビニの利益に単純には直結しないようです。
店舗で全て仕込んでいるわけではありませんから、原価率は高い。
もしかしたらおでん種だけで40%以上にはなるのではないでしょうか?
そこに出汁の原価がかかる。
想像以上の手間(人件費)がかかる。
時間を過ぎたものの廃棄ロスもあるし、少なくなったものを追加するタイミングがずれれば機会ロスになります。
衛生の問題も大きい負担です。
傍目にはよく見えても、内情の大変さは見えません。

 のしかかる人件費

優雅な白鳥の足掻きのことも例にあげられるように、飲食店やコンビニの内情を知ってしまうと、夢や希望は何処にあるのかと思うようになります。しかし、コレが現実であることを思うと、わかってくることがあります。

物の値段を考える時、人は人件費を軽視する。というよりも意識しない限り具体的に見えてきません。自分の仕事量を量って不満を言うことは出来ても、他人についてはわからないものです。コンビニは消費者に冬の定番の「おでん」を手軽に食べられるようにしてくれました。しかし、同時に自らはその扱いで苦労し、飲食店には売価の面で「おでん」を売り難くしてくれました。

夏場に苦戦をするおでん専門店にとっては、果たしてどういう影響が出ていることでしょう。他人事ながら気になります。

私は「人件費こそが飲食店をつぶす」と思っています。
経営者も利用者側も、しっかりと人件費をかけるべきだと気づかない限り、飲食店に未来はないと私は危惧しています。

コンビニでおでんと弁当、ついでに缶ビールを買って、自宅でチン。
缶は自分でプシュッとして食卓につけばいい。わざわざ食事に行く(来る)店のあるべき姿を間違うことのないようにすべきです。

参考までに

※ 家庭でおでんを作る時、ウィンナーと生姜入りさつま揚げを入れると、簡単に作ってもグッといい味になりますよ。