商店街がなくなる 世田谷区経堂の旧街道

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 世田谷の一例

商店街がシャッター通りになってしまうという話が、特に地方都市では相当前からきかれています。ところが、これが大繁華街は別にして、東京の街でも例外なく進行しているのも確かなことです。
様々な理由があることでしょう。
対抗するための努力も、また工夫もたくさんしていることでしょう。

だけど、思惑が外れたり、勘違いをしていたりで、結果に結びつかないことがほとんどのようです。

東京の小田急線沿線、世田谷区の経堂駅近くにある商店街のひとつが、どんどんと寂れていく姿を目にしてきました。
20年ほど前、駅を出て1分も歩かずに大手のスーパーがあって、その横から始まる商店街の入口に酒屋さんがあり、向かい側には花屋さん。さらにその先20メートルほどにもう一軒あった酒屋さんの右隣に、当時私が仕事をしていた会社の居酒屋が新規開店したのです。
うちの店舗の右隣は床屋さん、数軒先にはコンビニもありました。
商店街の入口にあった酒屋さんとうちの店舗を除き、これらが皆なくなったのは、その後2年間のことでしたから、あっと言う間のことです。
その頃、うちの店の前の燃料屋さんの社長と話していた時のことです。
「この商店街で自分で商売やってるのは俺のとこくらいになっちゃったよ」
と教えてくれました。
「みんな他所に貸して、自分じゃ商売やめたんだからなあ」と寂しそうでした。
「俺のとこもそろそろかな…ここも昔は馬車の通る街道だったんだ。結構賑やかなもんだったよ。」
と遠くを見るように話してくれました。

それから1年ほど後に、その社長のところも商売をやめ、建て替えて後、1階をテナントとして貸し出すことになりました。

もっとも、燃料屋さんと言っても、今では「燃料屋」というお店の姿を思い浮かべるのは難しいでしょうから、商売として先は厳しい状態だったのも確かです。

ここにひとつの理由が見えてきたと思いました。

画像はイメージです

 他所に貸すということ

単純に言えば、他所に貸すということは「家賃」収入の方が身になると判断した結果です。従って、借りる方には「家賃」が発生します。

これまでは、自分の商売から出る利益で「固定資産税」を賄っていたものが、「家賃」という収入から払うように変わるということ。労せずして家賃が入ることの方が利がある。

自分で商売をしていた人が、商売にならなくなって他所に貸す。
つまり、借りた人は、それまでの大家さんの商売よりも遥かに高い「固定費」が必要になるということです。

こんな場所に自信を持って出店できる人、あるいは商売はあるでしょうか?

ここがポイントで、街によっては結局のところ、次々に借り手が変わるか、借り手がつかないかのどちらかでしかありません。
それまでのマーケットよりも、圧倒的にお客様の人数が、言い換えれば街としての集客力が上がらない限りは、その商店街は死んでしまうことになります。要はそれまでよりも集約力のある店舗がテナントで入らない限り、商店街としては更に悪くなるだけということです。
店舗の数が減れば、魅力的な店がなければ、人も寄り付いてきませんので、加速度的に過疎化が進む。
同時に、自らで商売をしなくなった大家さんが、街を活性化するための努力を必死になってするとは思えません。街を変えることに力を入れるよりも、目先のことに大家さんがとらわれるのも仕方のない状況が続くのではないでしょうか。
これは圧倒的なキャパシティのない街では、常にはらんだ危機です。
それは、自分で商売をしなくなった大家さんが増えるところから始まり、それが進行するところから、歯止めがきかなくなり、行き着く先は誰の目にも明らかになるのです。

 商店街がなくなる

綺麗事を並べても、お客様から必要とされなくなった店舗は姿を消し、次々と歯抜けになれば商店街自体が必要とされなくなる。これは自明の理です。
先程の経堂の商店街に2軒あった酒屋さんの一つは今も頑張っています。なくなった酒屋さんの悪口ではなく、この2軒には大きな違いがありました。当時の世間の需要に敏感だったかどうかと跡取りの問題。

残った酒屋さんは、当時地酒に目をつけた息子さんが跡を継いでいて、もう一軒は従前のスタイルのままで娘さんに継がせることはできなかった。

果たしてこの先に状況が解消される流れがあるでしょうか?

私には全く見えてきません。商店街として生き残るには他にはない魅力づくりしかなく、そんなものが簡単に見つかれば誰だって苦労するはずもない。

画像はイメージです

せめて、商店街の中にエアコンの効いた休憩所があり、そこに自由に使える男女別のお手洗いがあれば、人が来る理由になるかもしれません。
ここで大事なのは、「再開発」という夢物語や催眠術に惑わされないことです。再開発の名目で街が生き返った例など、大都市の中核部分以外では先ずないのですから。
さあ、本当の夢はどこで見れば良いのでしょう…
手にしたグラスの氷をカランッと鳴らし、向こう側の景色を覗いて見ますか。