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売れないものを商品に
もう10年ほど前のことですが、ふと思いついたことがあって、馴染みの業者さんに相談したことがあります。
若い頃によく夏に遊びに行った瀬戸内海の島のことです。そこは住む人も20人ほどと少なく、もちろん店舗などないところですから、滞在するには食料を持って行かなければなりませんでした。幸いに知り合いの別荘?とも言うべき家が3軒あったために、水の心配や寝泊まりには何の不自由もありません。
その別荘にはニ人の管理人さんもいて、聞けばいろいろ教えてくれます。それもあって、夏に訪れたある時、バケツに山のようにシャコを買って行ったは良いけど、酢を忘れ、ポン酢で食べるようにしたいと考えて相談したら、「その辺のみかんの青い実をとって搾って食べりゃええがな」と言ってくれたのです。
瀬戸内海の島はみかんの栽培で生計を立てている人が多く、どの島も皆んなみかんの木で一杯です。当然その島もそうだったのですが、そのみかんは管理人さんのものではなく、その別荘のオーナーのものでもありません。しかし彼は言います。「どうせ間引くんじゃから、多少もろたところでお互い様じゃ。」
そこで遠慮なくピンポン玉ほどの、小さなみかんの青い実を幾つかもらって、ポン酢代わりにシャコをいただきました。甘くはなく、かなり酸っぱかった記憶が残っています。
そんな経験から、今回は間引くみかんの実を、どうせなら捨てないで売れないか?と考えたわけですが、普通であれば何に使うかが決まってない限り、誰も買ってはくれませんし、売り先だって見当つきません。だからこそ、居酒屋なら売れると。
同じ思いの縁
「早摘みの青みかんは手に入りませんか?」
「実は1週間前に愛媛の宇和島で、その青いみかんを何とかしたいと言う話を聞いてきたばかりなんです。」
縁とは不思議なもので、直ぐに答えをもらいました。
私がそう聞いた業者さんは、日頃から地方の日の目を見ない、良質の商品を世に出せるように努力している方です。良いものを作っているのに、どこへ売っていいかわからないとか、地元の一部では使われているけど、他には知られていないとかの加工品や作物を扱っています。
こうした業者さんとご縁をいただくのは本当にありがたいことです。この方はご自分の事業が社会貢献に繋がることを願って仕事をされています。もちろん甘い話ではないでしょうが、生産者にも購入者にも、そして消費者にも喜ばれる仕事になることは本当の成果です。
相談をしたのは夏でしたが、話はトントン拍子で進み、その秋には10店舗ほどで扱うことができました。実際は摘果みかんよりも少し熟した実を使うことになりました。酸っぱくはないけれど食べるには甘さが足りないと言うくらいの状態です。
地元の人たちの環境をうかがうと、みかん畑は斜面が多く、しかもみかん農家にも若い人が少ないため、年配のお母さんたちが重いみかんを持って坂道を上り下りしているそうです。出荷できるみかんを収穫する前に、摘果した売れないみかんを運ぶのはやはり大変。それが売れるとなれば、気持ちだって変わってくるというのです。
居酒屋の場合は特別に調理をするまでもなく、飲み物としてい売るのが一番。思いついたのは生搾りのサワーでした。
早摘み生搾り・青みかんサワー
早摘みみかんも身の色は普段食べるみかんと同じですから、半分にカットすると緑とオレンジがきれいに映えます。そんな青みかんを絞り入れてサワーにして売るのです。ウリ文句は「季節限定・珍しさ・農家へ協力」です。
店頭に大きなPOPを張り出すと通りがかりの人たちに効果があり、それを見て「青みかんサワーだって!」と言いながら入店してくれるカップルのお客様もいました。店内の差込メニューでは農家のお母さんたちの写真が効果的でした。そして何よりも、カットした実を見たお客様が「わあ、きれい!」と言ってくれたことです。
お客様にどうアピールするかはともかく、調理したり、そのまま果実として提供したりは限りがあります。しかし、飲み物の季節限定のトッピングとしては大変優秀なアイテムです。何しろ、手に入れたくても身近にあるわけではありません。居酒屋の強みとしてどう活かすかです。
期間としては1ヶ月ほどしか入荷しません。もちろん通常のみかんと比べれば安価で入れてくれます。生産農家とのコラボ企画とまでは行きませんが、さらに中身を深めていけば、お互いがもっと協力できると思います。
居酒屋は社会貢献できる
お陰で、この企画は何年も続きました。毎年、取り扱う店舗数も増えていきました。生産農家の困ったことを、居酒屋が解決の提案をする。そこに消費者のお客様が手を貸してくれれば、ひとつの「困った」が解決します。
居酒屋の世の中での位置は、そこで仕事をしている人たちが思う以上に、世の中への影響を及ぼすところにあります。居酒屋のできることはまだまだたくさんあります。売上と利益がなければ続けられないのは当然として、それを生み出す手法も、お客様には常に見られています。
町内のイベントや、商店会の催しなどに参加することもあるでしょう。そこにはたちまちに売上に繋がらないことばかりのはずです。むしろ持ち出しだってあるかも知れません。しかし、自分の店がその場所に存在する意味や価値をアピールすることができれば、人の見る目も変わってきます。
きれい事に聞こえても、居酒屋だって社会に貢献する姿勢も問われると思います。そしてそのやり方はそれぞれです。居酒屋の特徴と個性と強みを知れば、工夫次第で可能性は必ずあるはずです。世間に認められる存在として立場を上げるためにも努力すべきだと、私は考えます。
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青みかん 取扱業者さん:
有限会社ウインキューブインターナショナル
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