七福弁天庵 そば屋の在り方を改めて教わる

この記事の目次

 新しくて古いそば屋

東日本橋、ビジネス街の真ん中に「七福弁天庵」というそば屋さんがあります。他にも何軒かあるチェーン店のひとつです。
立ち食いではありませんが、駅前の気軽に入れるそば屋さんです。
ただ、有名な「富士そば」さんと比べると、明らかな違いがあります。
メニューに酒類を多く揃え、まだ明るすぎる昼間からでも、飲ませてくれます。
最近は地酒も選りすぐりを何点か置いてあり、これが私にはありがたい。
本当は、いつの間にかメニューから消えてしまった「大関」の燗酒のほうがピッタリだと私は感じていたのですが。

酒の肴としての料理も別メニューとして用意があり、これが心憎いほどに気が利いています。酒飲みとしてはまんまと術中にハマってしまいます。店によっていくらか内容が違うようですが、何と言っても一番のおすすめは天ぷらです。そこで天ぷらが届くまで、先に「板わさ」でつなぎましょう。

四種ほどの野菜天ぷら盛合せは、当然揚げたてを出してくれます。
しかも、職人さんが揚げていることがハッキリとわかります。
塩を軽く付けながら日本酒と一緒にいただくと、どっちが主役でも成り立ちます。

この職人さんが揚げてくれるというところが重要。それをかなり格安の値段で酒とともに楽しめる。さらにこの一皿が一人に調度いい量なのです。

 蕎麦屋で飲むこと

そば屋さんでそばを頼んで、そばが届くまでの間、酒で時間をつなぐ。
「板わさ」や「そばがき」が定番だったという時代、これが江戸っ子の「粋」だったのも、今は昔。
そば屋で気軽に飲むという風景は、案外に少なくなってしまいました。

美味しいものを食べるのには「待つ」ということさえ、今は昔になってしまったよう。居酒屋では特に、「待つ」ことなどもってのほか!という風潮が出来上がっています。居酒屋にとって、待たせることは今や致命傷になり兼ねません。

蕎麦は打ちたて、茹でたてが美味い!
となれば、待たねばならん。
気の短いと言われる江戸っ子が「待つ」のです。
「女房を質に入れてでも」と、春先の時期に江戸っ子が見栄を張って食べたという高価な「初カツオ」
これもやはり「待った」のでしょう。
最近のようにわざわざ遠くまで船を出して、無理にでも2月の初めから初カツオを食べさせろなどと、「無粋」なことは言わなかったに違いありません。
美味しいものを食べるために「待つ」ということの「粋」を考る。
そしてさらに、冷蔵庫などなかった時代から受け継いだはずの、「美味しいもののお裾分け」を思い出したいものです。
隣近所へ幸せのお裾分け。 何と「粋」じゃないですか!

冷蔵冷凍技術が進み、経済も発展し、世界の各地から名品珍品、特産品が届く。果たして、今の私たちは「豊かな食文化」の中で暮らしているのでしょうか?

※ 残念ながら、こちらのグループ店舗は2017年6月で全店閉店してしまったようです。良質な燗酒をお手軽価格で出してくれていたのが、いつかやや高めの地酒にシフトしたことに、少し迷走していると感じた頃から、厳しい坂道に差し掛かっていたということなのでしょう。長い間ありがとうございました。