味覚破壊の真犯人は? 胸に手を当てる自分がいる

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 味覚の決め手は本質よりも流行?

日本人の味覚を破壊したのは、サワーブームだと言った人がいました。
1980年代の半ば、当時の若者に聞くと、「コーラを飲みながらご飯を食べる」ことは「普通」だと答えられ、私などは困惑した時代でした。
同じ頃にサワーは全盛期を迎えていました。
まさに同時代、ハンバーガー店も一気に店舗数を増やしたはずです。

私自身、ハンバーガーとでさえも、コーラやジュースは一緒に口にはできなかったのですが、その当時の20歳前後の若者には、コーラとのカップリングは当たり前のことでした。

サワーブームを上手く仕掛けたのは、確か「村さ来」さんだったと記憶しています。カラーの写真で目先に訴えることを始めた。もちろん他の居酒屋チェーンも次々とそれに習って行く。
そして、そのサワーブムをもっと上手に利用して、さらなる儲けのしくみを作ったのが「つぼ八」さんです。

人によってはソーダの効いたジュースと何ら変わらないこの「サワー」を、特に女性たちはなおさら、「美味しい」と言って飲んでいました。イチゴ味のサワーを飲みながら、マグロ刺しを食べるのです。メロンの味のサワーが、肉じゃがと一緒に口に入るのです。当然ですが、多くのチェーン居酒屋では焼酎の濃度は低く、ジュースと変わらなかったかも知れません。

その頃、ウーロンハイはまだ殆どの店でメニューにもありません。
歴史というか、辿ってきた流行は、新しい物が生まれると、過去のものは否定されるところから始まります。順番が逆になることももちろんあるでしょうけれど。
しかし、その次に食文化が大きく動いたことは間違いありませんね。
そして、味覚破壊?された人たちが(いやグルメという方が正しいのか?)、流行の先にある世界の食材や料理に興味をもつことから、日本では世界中の美味しさが溢れるようになっていきます。

 変わりゆくもの

居酒屋チェーンがそれまでの食文化を、ある意味、徹底して壊したのは事実に間違いありません。しかも私はその片棒を担いでいたのです。
良し悪しの話ではありません。
今思えば、1985年頃の若者は、現在すでに50歳前後です。
きっとお子さんたちは20歳前後でしょう。サワーブムの、もしかしたら被害者になった人たちが、次の世代へどのように食文化を伝えていくかが問われるのではないでしょうか?

煮っころがし

私が最近まで店に立っていて、20代の人たちの新鮮さを感じていました。

彼らにしてみれば「お祖母ちゃん世代」の料理に、意外と興味を持ってくれます。

もしかしたら、お母さんたちが家庭の食卓に並べることのなかった料理なのかも知れません。
バブルの真っ只中を経験し、その後の逼塞した長い時代を生き抜いてきたお父さんお母さん世代の食文化はどうだったでしょう?

失礼ながら、居酒屋の責任も伴って、本当に美味しいものを経験させてあげなかった世代なのかもと、我が身を少し責めたりします。

日曜日の昼のTBSの番組で、若い女性に料理を作ってもらう企画が、なかなか人気があるようです。私としては、作り方がわからないことに大きな問題はないと思って見ています。それよりも心配なのは、料理を「美味しいと思って食べたことがないのでは?」と感じてしまうことです。
「味覚破壊」で槍玉に挙げる前に、なんだか夢見心地だけで知った気分でいた「美味しさ」を、日本の風土とともに、もう一度見直す時期に来ていると思うこの頃なのです。