廣戸川・特別純米 福島の松崎酒造

 廣戸川特別純米

グラスに鼻を近づける時にはかすかに佇む香りが、舌へ乗せると同時に麹の香りとともにほのかにブドウを思わせる香りとなって口中に一気に広がる。心地よい甘みといくらか酸の勢いを感じながら喉を通すと、米の旨味を残しながら香りはスッと消えていく。
ラベルには国産米とあるが、福島県産米の「夢の香」だそうだ。
精米歩合 55%  アルコール度数 16度。
他にはどこかのサイトでみた数字を信じると 日本酒度+2、酸度1.4。
数字は数字として、感じ方にはあまり当てにならないことが多いため、参考程度にした方が感覚の邪魔にならない。

どうやら震災でそれまでの杜氏さんが続けられなくなったことを機に、次世代蔵元が杜氏となってブランドの新しい挑戦をしているようだ。そして鑑評会などで1年目から金賞を受賞し、いきなり注目を集めることとなったらしい。

何ごとも継続の難しさを語られることが多い。

継続してきた歴史の変換点に、次の世代が未来へ挑戦をする勇気も見上げたものだと思う。少し穿ってみれば、挑戦をして新しい次元へ行かなければ将来を見通せない事情があったかもしれない。

「変わる」ということは、ほとんどの場合、若い世代でないと切り出せない。旧態依然と守ってきた人たちは兎に角、「変わる」ことを嫌う傾向が強い。
怖いのだ。それまでの成功体験にしがみつく方がずっと気は楽だし、言い訳も立つ。しかし、そんなケースに限って、10年後は見ようとしていない。

 友人にもらった酒

廣戸川特別純米酒。
これは二十数年ぶりに会った福島の友人が持参してくれたお酒だ。

福島は日本全国で第4位の酒蔵数を誇る県。それだけ酒蔵が多いということは、県内でもそれだけ日本酒が愛されていると考えて違いないと思う。福島は日本酒を愛するトップクラスの県と言って何ら問題がないのだ。

その友人とは、学生時代も一緒に日本酒を飲んだ仲。もちろん、銘柄を選ぶなどという金銭的余裕はなく、安い方がいいか?のような飲み方であったし、そうでなければ度々は飲んでいられなかった。
私たちはその違いを経験する必要があったと、今は思っている。「安い方がいい」と「旨い酒を飲みたい」は誰が考えても一致しない。それ故に、大きな違いをほとんど知る術もなく飲んでいたということが現実だった。

お陰で多少の金額を投じて飲むことができるようになると、真実に気付くようになる。そして高いか安いかも分かるようになる。これも後で思えばの、収穫のひとつになっている。

日本酒ではない日本酒を飲んでいたと言ってはいけない。そんなことは誰もハナから考えていない。ただ、隠れ蓑のように姿を眩ませた酒の真実はあったと思う。

時代とともに新しいものや技術が生まれ、価値観が変わり、それまで常識と信じていたことがいつの間にか、ボタンの掛け違いになっていることに気づかないままでいることがある。


廣戸川が挑んだ過程は、そう簡単に真似のできることではない。しかし多くの酒蔵が悩むことの解決のヒントであることは間違いない。
「勇気」がそうさせ、切羽詰まった現状がそうさせ、失礼ながら真剣だったからこそひょうたんから駒が出た。

だが、やってみなければ何も起こらなかった。むしろ増えていく閉塞感を抱えるだけになっていたように思う。

世の中の隠れた逃げ口上を、そっとしておくのも優しさだろう。
だが、無責任に尻を叩くのも、時には親切になるのかもしれない。
いずれにしても、覚悟を決めた者にだけ「未来は拓ける」ことは、誰もが否定できないのだ。
廣戸川特別純米のグラスを傾けながら、ややこしい理屈をひねり始めた。
早く酔っ払ったほうが今夜は幸せになれそうだ。