店のお客様は店長の鏡

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  店のお客様は店長の鏡

飲食店、特に居酒屋を語る時に客層は常に引き合いに出される。

出店する時に、どんな客層を狙って、いくらの客単価で…というのは当然に出店計画の重要部分だ。性別、年齢層、職業などが不可欠の素因であることは誰もが想像つくことだろう。

しかし、それだけない客層が見落とされがちで、むしろその方が重要な問題になる場合が多い。先に上げた性別や年齢層などは明確に分けやすく、どこに所属するかという部門だけに、統計上も客観性は成り立つのだろう。
ところが実際に蓋を開けてみると、そんな客観性だけでは割り切れない客層の違いが現れることがよくある。

競馬場や場外馬券場の近くでもないのに、競馬新聞を片手にしたお客様がカウンターに並んだり、お客様どおしアチコチでパチンコの話題が花開いていたりということは珍しくない。このケースでは大抵の場合、その店の店長がギャンブル好きであることがほとんどだ。大型店や、個室が中心の居酒屋では気になるほどにはならないかも知れないが。

また大雑把ではあるが、店のコンセプトに拘らず、店長の年齢が50代以上であれば年配客が多く、20代であれば若い世代が多くなるのも事実。

このように、見た目で分かりやすい客層の変化で店造りに違和感があった場合は、少し考えれば理解でき判断しやすいため、改善すべき問題となった時も対策を立てて取り組みやすい。

 無意識の客層

そんな中でも、原因に気づきにくい客層の変化や定着がある。
「こんな店にしたい」というコンセプトのもとに出店し、意気込んでいたのに、全く違う方向になってしまったという居酒屋が必ずあるはずだ。

例えば「もっと安くしてよ!」とか「何かサービスはないの?」などとお客様から度々言われたことはないだろうか?

そんな時の店側の反応としてはきっとこうだろう。
◆「もっと安くしてよ!」→ 「ケチくさいお客さんだなあ」
◆「何かサービスはないの?」→ 「そんなにタダであげられないよ」
と、こんな言葉で片付けてしまうことが殆どだろう。

要は自分の責任ではなく、お客様の「無理強い」と決めつけているだけだ。

◆「もっと安くしてよ!」= 「思ったよりも高いな!」
◆「何かサービスはないの?」= 「サービスの悪い店だな!」
お客様の本音や心の中に潜んでいる声をこう言う意味で聞いたことはあるだろうか?「サービスの悪い店」というのは「物をタダでくれない店」ではない。

こういったケースはまだわかりやすく、なぜ高いと思われるのか、どんな気遣いが不足しているのかを検証すれば解決しやすいのだが、実はもっと分かり難いパターンで現れると原因に気づけないことがある。

お客様のぞんざいな態度、乱暴でツッケンドンな言葉、店のことや他のお客様のことを気にすることもなく大声で騒ぐ、またいくらお勧めしても客単価が一向に上がらない、などが目立つ店にどんな問題があって原因は何かは分かり難い。
それは常にお客様を要因として考えるからであって、我が身を振り返ることですぐに分かる。そのままこれは普段の店長の態度がぞんざいで、言葉遣いが乱暴で気遣いがないからなのだ。
分かり難い理由はここにある。自分を要因として問題に繋がるとは誰も積極的に考えることがない。そこに気づきさえすれば、問題の本質がどこにあるかはすぐに判断がつき、改善の道は拓ける。
そう、店長そのものに問題があるのだ。

 自分の店の存在意義

丁寧な言葉と態度で接客をすれば、お客様はそれに歩み寄ってくれる。店を好きになってもらえれば、店の困ることをお客様はしなくなる。店長の真摯な思いや細々とした気遣いが伝われば、余裕のある範囲でお金も使ってくれようとするし、来店回数もそのぶん増やしてくれる。

単に支払い金額を安く済ませる居酒屋を目指すのか、或いは財布への優しさだけでなく、少しでも幸せな気分を提供してお客様を帰すことができる居酒屋を目指すのか。それをどう天秤にかけて店造りをするのか。
自分の店がどんな居酒屋であるべきなのかを心底から考えて、実行すべきは何かを理解しているか。そしてそれには全て「店長の質」が優先するのだと理解しているか。

居酒屋がどんな形でお客様に受け入れられるかは、それぞれの店のコンセプトに依らざるを得ない。しかし、自分の質を店長が棚上げにしてそれを実現することは絶対にできない。

店とはまさに自分自身でしかない。店の存在意義とは店長の存在意義。こんな大事なことも、今では教えてくれる先輩や上司は案外に少なくなったのではないかと心配になる。
お客様を見ていれば店長のことがわかる。店造りや普段の営業に悩んだ時には、改めてこんな言葉を思い返すことを私は誰にもお勧めする。
お客様は店長の鏡
そのたびにこの言葉が滲みてくるに違いない。