東陽町・くらかど酒店の進化

 東陽町の銘酒酒屋 くらかど酒店

しばらくぶりに「くらかど酒店」を訪ねたのは既に以前のときより1年以上経過していた2020年の春の初めだった。
地下鉄の東陽町駅から馴染みの通りを歩けば1分ほどで到着する。

居酒屋で地酒を売りにしたい店舗は地酒に強い業務用酒屋(或いは問屋)さんとの取引が不可欠だ。
店舗自身で更に深く地酒と付き合いたいなら、蔵元との直接取引もしたいところだが、それには語り尽くせないほどの日々の努力からの蔵元との意思疎通は欠かせない。まあむしろ奇跡的な関係と言わざるを得ない。

そんな中、問屋を介すことなく蔵元と直接の取引がある酒屋さんの存在はありがたいことこの上ない。
この「くらかど酒店」はまさにそんな酒屋さんだ。
大型チェーンの居酒屋ではなく、個人でこだわった地酒を並べる居酒屋を営みたい人にとっては同じ志を持った酒屋さんと付き合えるに限る。そんな思いのあるオーナーは一度訪ねてみると良い。
もちろん街の酒屋さんだから一般の誰もが気軽に利用できる。
私にとって残念なのは私の自宅の近くではないということ。
その「くらかど酒店」さんが今回の訪問では大きく姿を変えていた。

 立ち呑み処

くらかど酒店さんは店舗の一角を改装して立呑ができるスペースを設けていた。聞くと昨年2019年5月からだというから私も迂闊なもので、何も知らないでいた。一般的な酒屋さんの角打ちと違い、この店にはその辺の当たり前の日本酒ではなく、地酒好きには堪らない銘酒が冷蔵庫に並んでいる店なのだから、立呑み処で扱う酒の銘柄が極めて魅力的なのだ。東陽町のすぐ近く門前仲町にも地酒を角打ちで飲ませてくれることで有名な折原商店という酒屋さんが深川不動尊の参道にあるが、趣は全く別物になっている。しかもここにいる店主は誰よりも日本酒を愛し、こだわりも人一倍で薀蓄を語らせたら3日経っても終わりそうにない。
ここの店主は私にとって地酒の師匠なのだ。

そんな店主が立呑み処の短冊に掲げた酒は当然におすすめしたいに違いないが、飲み手としてはその中から1杯目を選んだら、「次は何が良いでしょうか?」ときいてみるのが良い。
もちろん短冊の酒だけを売っている訳がない。冷蔵庫からそっとその時期のとっておきの1本を出してきて勧めてくれるだろう。
店主の酒談義を聞きながらグラスを傾けるのが至福の時間になる。
町の普通の飲食店で飲む酒と違った楽しみ方をこんな時には見つけ出してみたいものだ。

 日本酒の迷走を見てきたオヤジ

私がこの店主と出会ったのは30年以上前になる。
酒の等級表示がなくなり特定名称酒という「吟醸酒」などという造り方を全面に押し出して地酒を世に送り出そうとし始めた頃だ。
そしてこの頃から流通の進化もあって、日本酒はバエティー豊かな造りで発売されるようになった。
当然に売る側の商品知識が酒蔵に追いつくことができるほどには公開されてなく、よほどの興味がある人でない限りわからなくなる。
そんな厄介な時代に突入していく。
「純米大吟醸だから美味しいでしょう」という思い込みは当てにならない。要は看板で上質な日本酒を求めるだけでは無理な時代になった。
そうして本当の知識を持った店主が居ると居ないで地酒専門店の差別化が進むことになる。
そんな時代をこのくらかど酒店の店主はくぐり抜けてきたオヤジなのだ。

世の中で香り豊かな吟醸酒がもてはやさえる時代も経験した。
メロンだ、りんごだ、バナナだという果実に似た香りをプンプンと撒き散らすような日本酒が受けた。
それが美味しいこととイコールになるかどうかはともかく、それまであまり日本酒に縁のなかった人たちがそれにハマった。
まるでワインのようとか、飲みやすいとか、これも的はずれな感想で多くの人たちが日本酒を語るようになる。
全国の鑑評会でも上位の賞を取れるのがそんな酒になり、時代はそうして日本酒の在り方を弄ぶかのように移り変わることになった。

日本酒がそうして迷走する時代を経験している中、くらかど酒店の店主は常に異議を唱えていたものである。
「香りばかりを目立たせる吟醸酒を造るのは簡単なんですよ。」
「味わいのある本醸造を造ることができる人が居なくなってしまう。」
そんなセリフをよく聞いてきた。
そして今現在、その予言通りになってしまったと感じることがある。

コメント

  1. オブナイ より:

    この酒屋さんは魅力的ですね。コロナ騒ぎが収まったらぜひうかがいたいです。折原酒店さんも気になりますね🍶。