脱サラで独立

この記事の目次

店は誰でも持てる

自分で店を持つことと、正しく営業して経営することは違います。今回はその辺を私の見てきた経験から少し考えてみたいと思います。

 独立すること

最近ではあまり聞かなくなったことで、「脱サラして飲食店で独立する」という話が多かった時代があります。1970年代~80年代でしょうか。それを目当てにチェーン展開したところがいくつもありました。もちろんそんなチェーンに頼らず、自分で努力して開店にこぎつけた人も随分いたと思います。

喫茶店、ラーメン屋、やきとり屋、そして居酒屋。
実は私が最初に仕事をした居酒屋チェーンも、そうした人のフランチャイズの加盟店契約を中心にしていた時期がありました。80年代に延べ100店舗ほどのフランチャイズ店を開店してきましたが、脱サラという人ばかりではありません。洋食のコックさんをやっていた人、個人で独立したけど上手く行かないからフランチャイズに入りたいという人。様々な理由でしたが、そういう需要があった時代です。

オーナーの方にはしばらくの間、「研修」として直営店でオーナー自身が働きながら仕事を覚えてもらうことになっていました。一日5時間程度で、せいぜい2週間ほどの期間だった記憶があります。当時、私は直営店の店長として何人かのオーナーを受け持ったことがありましたが、心配でなりませんでした。正直言って、そんな期間では雰囲気を知っただけで終わりです。

オーナーの店の新規開店日にヘルプに行った時は、その心配を身にしみて体験しました。開店準備には本社の専任スタッフが付いて指導はするのです。しかし、その期間を過ぎたあとの姿が想像できて、自分の方が苦しい思いをしたことは今でも忘れられません。そのシステムが正しいか間違っているかではなく、「飲食店で独立する」ことはさして難しいとは、そのオーナー自身が意識になかったはずです。

本来、何のために独立するのか? 基本的なことですが、ここが明確であれば自分のなすべきことが見えてくるはずです。

 のれん分け

その100店舗のフランチャイズ店のうち、加盟を外れたところも含めて、5年以上存在した店舗はほんの一握りです。この例でも分かる通り、店を持って独立することは難しいことではありません。必要な資金さえあれば、方法はいくらでもあります。経験者であろうと、脱サラであろうとその点は平等にチャンスがあります。

昔からある「のれん分け」の意味を思い出した方が良さそうです。店舗を増やしてマーケットを広げるのと「のれん分け」は同じようで違います。経験を積んで、この人なら間違いなく独り立ちして自分の店を守っていけると、店の主人が判断した従業員に、同じのれんで独立することを許すのです。継続することと、誇りを持つことの両方を兼ね備えなければ無理な話で、独立する人の将来のことまで考えて自分の店を持つことを許すのです。

独立=独り立ち
人に頼らず一人でやっていけることです。数々の問題も自分で解決できる。

かつての私が見てきた加盟店募集のフランチャイズでは、心からお墨付きを与えることなど不可能です。悪く言えば、加盟契約料をもらって食材を買ってもらう、目先の売上と利益のために募集していたと言われても、正面から反論できないかも知れません。今では同じやり方が通るほどに甘くない。世の中自体も変わっていますからね。
大切なことは、店を持つことが目標ではなく、継続こそが本当の目標だとわかっているかどうかです。

昔と今はレベルが違う

今も独立して居酒屋を開店する話はよく聞きます。しかし、私が直接聞いた話も、耳にした話も、殆どが何年も経験を積んで独立した人の話ばかりです。以前のような脱サラの独立話は、まず聞かなくなりました。

30年ほど前とは違い、居酒屋の料理のレベルもサービスのレベルも、現在では遥かに上がっています。失礼ながら、現在では素人が趣味の延長でできるものではありません。よもやそんなレベルで開店するにしても、プロの仕事のできるメンバーを揃えない限りは短期間で閉店の憂き目を見ることは明らかです。

前記したように、居酒屋を新規開店することは簡単です。ところが何が大変かと言えば、続けることです。居酒屋も他の会社や企業と同じく、ここが肝心です。

一般の会社員の方たちが飲みに行く店のことを見て、自分でもできそうだと「やきとり屋」を始めるケースは、かつてよくあったようです。串に刺して焼けばいいんだろう?と見えるのでしょう。ところが見るとやるでは大違いなことをあとで気づくのです。確かにそれで成功した方も大勢いるでしょうが、ほとんどは現実に打ちのめされる羽目になったことでしょう。

しかし、今の時代、そんなお気軽な人はいないと思います。よく「ラーメン屋をやりたい」という夢や希望を話す人はいますが… 居酒屋、やきとり屋、ラーメン屋は意外と簡単に見えるのかもしれませんね。

成功したいなら

「自分でやらないの?」ということは私もよく聞かれました。

外からは見えない部分で、居酒屋はかなりの費用がかかります。物件の賃貸契約、保証金(または敷金)と毎月の家賃。水回りの設備を揃えるだけでも資金がないとできません。しかも自分一人で営業できる程度の店ならば、発展性はありません。上を求めるなら人も雇わなければなりません。そうすればその人たちの給与の保証は絶対です。食材やお酒を買うための運転資金も用意しないと日々が回りませんし、水道光熱費もうっかりしがちです。

こういった固定費や必要経費の額は、想像以上に嵩みます。では、それだけ投資して、毎日いくら売り上げればペイするのか。オーナーなら休みは要りませんね、ともならないでしょうから、月の営業日は25日くらいしかありませんよ。

そんな毎日を乗り切って、さらに馬力を持って進めるのは、体力だけでなく気力がなければ無理なことです。そしてそれを何年も続けてです。独立するなら若い内にした方が良い。私はそう勧めます。10年ほど頑張って資金をため、経験を積んで30歳前後で独立。これが理想のように思います。30~40年の経験後では体力も気力も後が厳しい。

もしも今、会社勤めの方が飲食店で独立したいなら、一日でも早く、勉強すのに相応しい店を見つけて転職することです。

素人では難しいもう一つの例

私が最初に仕事をした居酒屋チェーンがフランチャイズを中心にしていたことは既に話しました。その時の例で、もうひとつ素人では難しいことがありました。

当時の会社の経営幹部が飲食の素人だったのです。他の業界での事業は長くやっていたのですが、はやり経営幹部のほとんどが現場を知らないと言うのは致命傷に近いものがありました。現場のことは現場に任せるのはいいのですが、問題の起こった時にどうするのか?的確なアドバイスはできるのか?

会社経営としての数字を抑えることはできても、世間で言う営業職である、稼ぎ出す最前線の店舗経験がないのは辛かったことでしょう。そんな部分がフランチャイズ中心では信用も掴みきれず、持たなくなったひとつだったはずです。

私も長く居酒屋で仕事をして、最後までいた会社は経営陣から営業の幹部に至るまで、ほぼ全員が現場(店舗)からの叩き上げでした。何かあっても話が早い、決断が早い。

失敗はたくさん見て、自分も経験しました。夢を挫くようですが、脱サラであれ、何であれ、素人が居酒屋に手を出して成功するには、相当の覚悟と努力が必要です。経験のある人たちでさえ、懸命にやってきても上手く行かないケースの方が多いのですから。