La Malle de Bois ラ・マル・ド・ボァ その3

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 田んぼまでがコラボ

さらに列車が進むと、車内放送があります。促されて窓の外を見ると、田んぼの真中がハート型の空き地にされています。列車はその場に30秒ほど停車です。

春先の田植えの前までは、音符型に緑を残していたようです。

田んぼのハート
こんな粋なことをやっている農家さんて、会ってみたくなります。収穫量は下がる、手間はかかる。それだけを見れば、メリットは何もないのに。
やはり、喜んでくれる人がいることが自分の喜びと、きれい事に聞こえそうですが、これがサービス業の基本ですよね。突き詰めれば人としての理想かもしれません。
そうしていると、車掌さんからの次のサービスが始まります。
列車名を書いた40cmほどのプラカードを持って順番に席を回ります。お客様にそれを胸の前で持ってもらってのポラロイドカメラによる記念撮影です。お客様のスマホを預かっての撮影も応じてくれます。
列車に乗る時間をどれだけ彩りあるものにするか。
単に1時間移動するだけにせず、印象深い思い出の時間にするか。
移動ではなく、観光と捉えることで、見えてくる時間が変わってきます。

 一人旅の女性

私の隣の女性は一人旅でした。
最初、列車のチケットやパンフレット等をテーブルの上で写真に撮っていて、何気なく見ていた私が、勝手にそう思っただけですけど。
大阪から朝に着くバスで来たものの、宇野につくのが30分遅れてしまい、目的の島へ渡る船に間に合わなかったそうです。
豊島(てしま)へ直行便で行けず、直島経由で行ったために、思うような時間が取れず、4年後にリベンジします、と話していました。
その日の帰りのバスのチケットも買っていて、今日中に帰らなければいけないと、ちょっと残念そうでした。
今乗っている列車が土日以外は今日の木曜日しか走ってないことを私が言うと、彼女は、宇野港に戻った時に、たまたまこの列車があって乗ることにしたのでラッキーだったと嬉しそうに話しているのが、こちらまで嬉しくしてくれて、素敵なお嬢さんでした。
こうして彼女も旅を楽しむすべを自分のものにしているのです。

 旅がくれるもの

最後に途中停車した駅では、この列車の乗客ために、その駅にある地元のメーカーがホームで自慢のお菓子を売ることになっていました。幟が立っています、季節柄もあって「葡萄大福」。
甘いものには目が向かない私ですから、下車はしませんでした。だけど、7~8人の人が並んでいたのでメーカーとしても有難い企画でしょうね。わずか3分ほどの停車時間で商売になるのですから、タイアップとしては秀逸です。しかも到着時間も決まっている。
そこからは終点岡山駅まで15分程度です。

列車が発車する頃、「すみません」と声を変えてくる男性がいます。アレっと振り向くと、始発駅で席を交代した2人でした。
「席を替わってもらったお礼です、どうぞ受け取ってください」と、葡萄大福の紙袋を差し出してくれます。
「そんなに気を使わないでください。」
「いえ、ぜひ!」
「申し訳ない、遠慮無くいただきます。」
と、こんな会話をすることができました。
有り難かったですね。
彼ら2人の気持ちが嬉しかった。
たぶん、30歳前くらいだと思います。ご夫婦だったかもしれません。

ラ・マル・ド・ボァr路線図

岡山駅に着く少し前に、隣の大阪の女性に「葡萄大福」を一つお裾分けして、嬉し気持ちまでお裾分けできたように思ったのは、私の身勝手ですが、素敵な夕刻時でした。

ホームに降りると、大阪の女性と、先ほどの2人と「お気をつけて、良いご旅行を!」と声をかけながら、共有できた時間に感謝しました。

旅がくれるもの。
良き時間。
景色より何より、この3人との思い出は忘れないことでしょう。
770円のグリーン料金。
安く感じる1時間でした。