ハッピーアワーという魔物

  居酒屋のサービスタイム

近頃どこでもあちこちに見るハッピーアワーというサービスタイムがあります。
ウィキペディアによると:
ハッピーアワー(英語: Happy hour)とは、レストランやバー・パブなどの飲食店が、ビール、ワイン、カクテルなど酒類の割引を行う時間帯のことをいい、英語圏の諸国などで用いられる。
国家によって、その実施状況は異なる。例えばオランダなど一部のヨーロッパ諸国では、酒類の価格が規制され割引が禁止されているので、代わりに飲物が倍の量になる。イタリアでは飲物の価格が変わらないが、無料のつまみが提供される。

いつから日本でもそんな言い方をするようになったのかは思い出せませんが、要はお客様が少ない時間にメニューを安くして一人でも多くのお客様を導入しようということであることに変わりはありません。

ハッピーアワーという名称はともかく、限られた時間に安売りをするという発想は、飲食店で以前から、当たり前に行われてきたことです。もちろん安いことが嫌いなお客様は沢山いませんから、集客に繋がることは確かにあります。
そんなハッピーアワーは飲食店にとって本当に得になることなのでしょうか?
またお客様は本当に得をしているのでしょうか?
今回はそこを少し考えてみたいと思います。

 アイドルタイム

飲食店で言うアイドルタイムとはお客様の少ない時間、またはお客様の来ない時間ということです。そのままでは営業していても赤字になる時間と捉えればわかりやすいと思います。だからここにアクションを起こして有効に使おう、お客様に来てもらおうという戦略を立てることになります。

お客様を諦めて新人教育や店舗の清掃に当てようということも当然ありますが、営業時間内であることを忘れてはなりません。これまでの私の経験から言えば、営業時間内である限り、清掃に当てるなどの人件費の使い方を考えるのであれば、大切なことのポイントがズレてしまう心配の方が大きかったのが事実です。

アイドルタイムだから営業時間から外す、という考えではなく、これも営業時間に組み入れるならその時間をどう使うかということから生まれたのが、最近流行りのハッピーアワーなのだと私は思っています。
通常メニューを安くしてもいいから、その時間に一人でも多くのお客様を入れよう、それによってわずかでも利益を確保しよう、という考えから編み出した「サービスタイム」という意味合いの「ハッピーアワー」と理解すると間違いないはずです。

 グランドメニュー

グランドメニューとは飲食店で言うところの通常メニューのことです。

何のためにグランドメニューがあるのかは重要なことで、このメニューで営業することによって、お客様は来てくれ、必要な利益は確保できるという計算されたものです。

長く飲食の現場にいた私からすると、このグランドメニューの意味を多くの人が勘違いしているのではないかということを、最近は見せつけられているように思えてなりません。

ハッピーアワーというものを私が見る時に感じるのは、この大切なグランドメニューの値段を下げて同じものを売っている現実です。
「そうなんだ、安く売ってもやっていけるんだ…」という思いです。

であれば、普段のメニューって、高すぎるんじゃないの?ということに思いを馳せることになります。いくらお客様が少ない時間だと言っても、安く売ることができるなら、忙しい時間でもその値段にすればいいじゃないか!ということです。

それほどにグランドメニューとは心血を注いで、お客様と心のなかで対話をしながらの価格設定でなければならないと私は考えています。

 自分で自分の首を絞める

お客様に料理やドリンクを安く提供することに反対するつもりはありません。しかし、それはグランドメニューではいけないのです。今の街なかでハッピーアワーを宣伝している店を見る時、「暇な店だと自分から宣伝すのかい?」と私は見てしまいます。
「うちはお客様の来ない店ですよ。」
「安くしなければ来てくれません。」
「普通に来ると高いですよ!」
こう言っているようにしか見えないのです。

これでは、自分で自分の首を締めているのと変わりません。

お客様の少ない時間だからグランドメニューを安くするのではなく、その時間帯でなければ受けられないサービスを別に考えることでなければ、ほんとうの意味での「ハッピーアワー」にはならないことを、多くの人は考えようとしていません。自分の価値を自分から否定するような真似になる販促など、決して販促ではありません。
私はハッピーアワーを実施している店に、その時間を選んでは行きません。もしも安いという以外にお客様を満足できない店であれば、これは残念でしかないし、本質を忘れて魔物に取り憑かれているとしか思えないのです。お客様の来ない時間とは、改めてその時間の客層を掘りお越し、そのニーズに応える別の価値を造り出すことで対応しない限り、安売りに逃げていては自殺行為と他ならないことを知るべきです。
安いからと言って、ハッピーにはならないサービスタイムだと、いつか誰かが気付く時が魔法の覚める時だと私は確信しています。